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自然現象を軸に未知のデザインを探求する。プロダクトデザイナー/実験家「コエダ小林」の実験活動

2024/07/17(水)

インタビュー

クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズ。アワードを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターにフォーカスします。

今回のクリエイターは、世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」でのアワード受賞をはじめ「コクヨデザインアワード2020」「TOKYO MIDTOWN AWARD」「自然のやさしさを探るAWARD」など、数多くの賞に輝いた実績をもつ、プロダクトデザイナー/実験家のコエダ小林さん。彼の飽くなき探究心から生まれる活動の裏側をのぞいてみます。

ー制作を始めたきっかけを教えてください。

(コエダ小林、以下略)神戸芸術工科大学3年生の時に「ミラノデザインウィーク2018」に出展しました。そこでの展示や受賞の経験がきっかけで、実験的なアプローチでものづくりを始めるようになりました。自分が作りたいものに対する自信につながったことを、今でも鮮明に覚えています。



ー「ミラノデザインウィーク」では、どのような作品を出展していたんでしょうか?

「Quiet」という作品で、ピンと張った葉から朝露が滴り落ちるような、時の移ろいを人工的かつアナログに再現した装置としてのオブジェクトです。

ミラノデザインウィーク2018 FUTURE DOME PRIZE (CATEGORY: Emotional Syntheses)受賞 Photo taken by Koeda Kobayashi

ー「制作活動」のほかに行われている「実験活動」について教えてください。

「未知」を視るための試行回数を稼ぐ手段の一つとして、実験を行っています。

日々、私たちが生きている中で起こりうる事象は、どこか認識の中にある当たり前の事柄の集まりです。私はその正常を再解釈するために「実験」を行っています。

その結果、「A=A'」でない事象が発生するパターンが生まれます。



ー「実験活動」はご自身の制作にどのような影響を与えていますか?

全ての実験が制作に直接結びつくわけではありませんが、知識の蓄積が制作の糧になっていると信じています。そこには、多くの人が無意識のうちに感動できる魅力や驚きが生まれる瞬間が存在し、その未知の必然性を追い求める手段が実験であり制作であると感じます。



ー「実験活動」を通じて生まれた作品を教えてください。

純粋な実験の試行によりアイデアが生まれた作品の代表として、上記でも述べた「Quiet」があります。樹脂素材であるポリエステル製のオーガンジーは水を吸いません。しかし、二重に折り重ねることで、毛細管現象などの現象により水が浸透していきます。

その結果、綿や絹などの吸水性を持つ布では起こらない、一方から水を吸い上げつつ、他方からは重力によって水が滴り落ちる仕組みが出来上がります。この仕組みを利用し、葉っぱから朝露が滴り落ちるように見える作品を制作しました。葉のしなりや水滴が落ちた後の反動で跳ね返るといった、自然物特有の細やかな動きを、水をゆっくりと運ぶ仕組みによって最大限再現しています。

ー作品を生み出す際に重視していることや、それを象徴する作品はありますか?

コンセプトだけでなく、素材や技法、関わる人物、時代の流れなどすべてに一貫性があり、辻褄が合っていることを大切にしています。

また、軸となる自然現象も制作の手段になり得ることを受け入れ、一歩俯瞰した視点とその素質を理解することが重要だと考えます。


「面壁千年」は、ダルマのモデルとなった人物である菩提達磨をモチーフに、赤錆と緑青によって全身を覆うかたちで偉容な雰囲気を放つダルマとして生み出しました。

金属は溶かし混ぜると合金として別の存在にその姿を変えてしまいますが、漆喰に金属粉を混ぜ込むことで流動体金属を生成します。

腐食である赤錆は、社会環境や人間関係における厄難を表し、時間とともに発生する緑青は保護被膜として腐食から身を守る役割を成す。これは自身の抗う防衛本能であり、放出する念を表しています。

自然界において共存することのない双方を一つの枠に収めるという点で、シンボリックな作品と言えます。

「面壁千年」佇む姿に魅了され、生い立ちを知ったことをきっかけに「祈願」するダルマではなく「共成(共に成長する)」ダルマを目指した作品。


ー時岡翔太郎さん、有村大治郎さんとのチーム「21B STUDIO」での制作やシェアスペース「moku²」の運営など、活動の領域が幅広いですね。個人とチームでの制作物に違いはありますか?

個人とチームでの制作どちらとも「コエダ小林」が関わる作品ではありますが、個人の実験家としての作家的なアプローチと、チームだからこそ広く深く活動できるデザイナーとしての制作は、それぞれの表現手段や思考過程が違うため最終的なアウトプットも違ってきます。

個人の制作では、実験的なアプローチを「手段」として利用し、デザイナーとしてそれを仕立て上げ、作品制作を行っています。ジャンルや業界に縛られず、幅広く様々な人とコラボレーションできる余地があることが魅力だと感じています。

「21B STUDIO」でのチーム制作では、3人がそれぞれの個性を持っているので、その領域が自分の手足として拡張されるイメージです。表現の幅もアウトプットの安定感も充実し、業務的な内容からアートピースのような制作まで、デザイナーとしてのモノづくりに打ち込んでいます。



「21B STUDIO」では、既存のものを組み合わせ、新たなプロダクトに昇華されているのが印象的です。アイデアはどのようにだしているのですか?

アイデアの発想手段の1つとして、異なる2つの要素の組み合わせにより新たなアイデアを生み出す手法があります。それを意識しているというよりは、発想を細分化し、それらを単語や名詞に当てはめることでアイデアが言語化され、認識しやすい状態となり、最終的には組み合わせ的なアイデアに見える形でまとまっていることが多いと感じます。基本的に散歩中にアイデアを思いついたりすることが多いです。

「名字の万華鏡」万華鏡のような反射の原理をアクリルの特性で再現。名字の新たな側面を提示する。
「果実の楽器」知覚の相互作用を促し、五感を刺激するプロダクト。振ったり転がしたりすることで、果実ごとに個性ある音を奏でる。


ー2020年にAWRDで開催された「自然のやさしさを探るAWARD」にご応募いただきました。参加の経緯をお聞かせください。

「自然のやさしさを探るAWARD」では、テーマに沿った作品やアイデアを募集していました。アイデア段階の作品を一般の方に見ていただける機会はあまりありません。そこに興味を持ち、参加しました。



ー数多くのコンペティションで受賞されてますが、アワードやコンペティションへ参加するモチベーションは何ですか?

コンペティションのために作品を制作することもありますが、世の中の誰かに使ってもらいたいと思える魅力的なアイデアが思いついたときは、そのアイデアを実現する手段として、コンペを見つけることが多いです。



ーコンペティションやアワードに参加して得たものはありますか?

人脈や経験、自信を得たと思います。



ーコンペティションへの応募を検討しているクリエイターへのメッセージをお願いいたします。

アイデアを形にするうえで、コンペティションが最適であれば参加をお勧めします。そうでなくとも作ることをお勧めします。



ー今後の活動やイベントなどありましたら教えてください。

私が運営しているシェアスペース「Moku²」では、思いついたことや、やってみたいことを随時行っています。餃子を作ってみんなで食べたり、物々交換のお店を開いたりと、自由気ままに楽しんでいますので、ぜひ遊びに来てください。また、作品制作のコラボレーションなど、気軽に交流いただけるとありがたいです。


コエダ 小林

Profile:

プロダクトデザイナー/実験家
1996年生まれ。兵庫県姫路市の村で育つ。2019年、安積伸の事務所で経験を積む。個人でデザイン事務所を営みつつ、東京藝術大学に所属。また「21B STUDIO」としてチームでも活動を行う。自然現象の翻訳 をテーマに研究者のように意識深く物事に向き合いつつ、探検家のように純粋に探求を楽しんでいる。

Links


コエダ小林 ウェブサイト
https://www.koedakobayashi.com/

コエダ小林 Instagram

https://www.instagram.com/koeda_kobayashi/

21B STUDIO Instagram

https://www.instagram.com/21b_...


編集:AWRD編集部

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