クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズ。アワードを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターにフォーカスします。
今回は、ロンドンとトリノを拠点に活動する建築家・デザイナーのecoLogicStudioのClaudia Pasquero(クラウディア・パスケロ)さんとMarco Poletto(マルコ・ポレット)さん。
近年は、森美術館で開催された「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」に出展されたほか「crQlr Awards 2022」では、藻類で空気を浄化するプレイルーム「Air Bubble」でバイオデザインを受賞、2023年には韓国で個展を開催するなど、サステナブルな未来に向けてグローバルに活躍されています。
建築とバイオテクノロジーを融合させることで、都市が抱える大気汚染問題に取り組むお二人にプロジェクトに対する思いを伺いました。
ー現在の活動を始めたきっかけを教えてください。
私たちはイタリアのトリノにいたとき、テクノロジー、イノベーション、自然、そして計算という分野に出会いました。ロンドンに移り「Architectural Association」で建築と工学を学んでからは、生物学や微生物学に建築を融合させるアイデアに関心を持つようになりました。一方で、2000年初頭に、アートと建築のシーンで「デジタル技術」と「計算技術」の世界が爆発的に広まっていたんです。私たちは、この交差点からインスピレーションを得たツールやテクニックを導入することで、クリエイティブなプロセスにおけるデザインの役割を理解し、問い直すきっかけをもらいました。
ーお二人のプロジェクトは、アウトプットの美しさも印象的です。デザインのインスピレーションはどこから得ていますか?
初期のサイバネティクス研究者が構築した空間モデルや、計算がまだミニチュア化されていなかった時代の建築物からインスピレーションを得ています。例えば、古代エジプトの建築物ナイロメーターや、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品、ゴードン・パスクの作品などです。
また、自然やそれらをテーマとしたデザインも「Air Bubble」や「H.O.R.T.U.S. XL Astaxanthin.g」なども、私たちのプロジェクトにとって非常に重要なインスピレーション源となっています。
ー「Air Bubble」のアイデアはどのようにして生まれましたか?
「藻類」の力に注目したことが「Air Bubble」の始まりでした。藻類は、多くの大気汚染物質を食べて二酸化炭素を吸収し、光合成によって酸素を生産する能力を備えています。
藻類は、他の大型植物よりも大気中の汚染物質を再代謝する効率が10倍高く、無駄になる副産物を出さず有機物に変換できます。今も急速に成長し続ける藻類はさまざまな環境条件に適応できるため、あらゆる都市環境での展開に適しています。
ー新しいプロジェクト「𝐏𝐇𝐎𝐓𝐎𝐒𝐘𝐍𝐓𝐇𝐄𝐓𝐈𝐂𝐀 𝐂𝐎𝐋𝐋𝐄𝐂𝐓𝐈𝐎𝐍 𝐁𝐘 𝐄𝐂𝐎𝐋𝐎𝐆𝐈𝐂𝐒𝐓𝐔𝐃𝐈𝐎: 𝐁𝐢𝐨𝐩𝐡𝐢𝐥𝐢𝐜 𝐝𝐞𝐬𝐢𝐠𝐧 𝐩𝐫𝐨𝐝𝐮𝐜𝐭𝐬 𝐟𝐨𝐫 𝐜𝐨𝐥𝐥𝐞𝐜𝐭𝐢𝐯𝐞 𝐜𝐲𝐛𝐞𝐫-𝐠𝐚𝐫𝐝𝐞𝐧𝐢𝐧𝐠」について教えてください。
「PhotoSynthetica」は、気候変動と大気汚染が及ぼす都市への悪影響の改善に取り組むために始まりました。
卓上型バイオテクノロジー空気清浄機 (AIReactor)、堆肥化可能なスツール(Compostable Stool)、再代謝された汚染物質から作られた3Dプリントの宝石(Bio-Digital Ring)の3つのバイオフィリックデザイン製品から成り立つコレクションで、都市の再代謝の集団的プロセスを開始するためのツールとなっています。
ーこのプロジェクトは、どのような経緯で生まれましたか?
このプロジェクトを始めた背景にはいくつかの理由がありますが、そのうちの1つは、このコレクションの規模を拡大することで、大気汚染が深刻な都市部での展開を可能にし、人口密集地域に即効性のある利益を提供するためです。
「PhotoSynthetica」には、空気の質を大幅に改善し、都市環境における循環性を促進する力があります。
藻類の持つ空気浄化の特性を利用することで、大気中の二酸化炭素や粒子状物質などの汚染物質を効果的に除去し、大気汚染レベルを低減します。これは、呼吸器疾患やアレルギーなどの健康問題のリスクも減らすなど、公衆衛生にも良い影響を与えます。
さらに空気がきれいになることで生活全般の質が向上し、屋外での活動が促進され、住民や観光客にとってより快適で住みやすい都市環境が実現します。
ー影響を受けた出来事やプロジェクトはありますか?
グレゴリー・ベイトソンという人類学者の著書『Steps to an Ecology of Mind(精神の生態学)』は、私たちのスタジオの名前のインスピレーションとなるほどに影響を与えました。
グレゴリーはこの本の中で、私たちの携わる分野で使う「言葉」以外の言語、つまり人間として完全に生態学的なシステムを構築することのできない「メタ言語」について語っています。
ーメタ言語とはどのようなことでしょう?
循環型社会に関するプロジェクトに取り掛かる時、プロジェクトのエネルギー量や資源の材料についてなど、エクセルでシートを作り、計算式によって表すことができますが、そういった数字やコードによるデータも「メタ言語」のひとつです。
しかしプロジェクトそのものの価値を上げるためには、エクセルシートだけでは足りません。そこで、デザインやビジュアルアートとしての「メタ言語」も必要となってくるのです。人々が物理的かつ直感的にデザイン・プロジェクトと相互作用したり、没頭したりするためには、デザインの美しさは必要不可欠です。
ー日々の制作で最も大切にしていることはなんですか。
「実用的なものを作る」ということに重きを置かず、プロジェクト開発において美学とエコロジーの関係をどのように扱うかを重視するようにしています。
ー地球が直面している環境問題に対応するために、「建築」は最終的にどうあるべきだと思いますか?
建築的、技術的な観点から言えば、現在の建築構造に何らかのシステムを組み込むことは十分に可能だと考えています。現在、私たちが感じている主な障害は、むしろ「生産」の考え方です。
近代主義は、生産を私たちの居住空間から隔離し、都市生活者としての私たちを交流から遠ざける特徴があります。しかし、通常は汚れや健康状態に影響する菌類やバクテリアを考慮したパラダイムは、他にもいくらでもあり得ます。こういった菌類は、私たちが作り出す汚染の一部を再代謝することができる驚くべき生産的特性を持っているんです。
ー「crQlr Award 2022」に話題を変えますが、応募したきっかけを教えてください。
アワードの名前にもある「サーキュラリティ(循環性)」の考え方は、デザインとしてのサーキュラリティの考え方のようなものであると感じました。私たちの仕事においても、循環型アプローチは、私たちのすべての仕事に影響を及ぼしているため「crQlr Awards 2022」のコンセプトと合っていると感じ応募をしました。
私たちは、自然がどのように作用し、自然の中で資源がどのように循環しているのかを理解しようと努めています。そして、これらの資源や資源の循環性が、新しいデザイン様式にどのようにインスピレーションを与えることができるのかを理解しようと努めています。もちろん、それはデザインの美しさにも表れていますが、私たちにとって美的要素とは、プロジェクトにおいてより深い生態学的知性のようなものを表現する手段のひとつなのです。
ー今後も続く「crQlr Awards」に応募を検討している人たちにメッセージをお願いします。
今日の美しい、あるいは価値のあるデザイン・プロジェクトとは、エコロジカルな知性を具現化したプロジェクトだと思います。 そしてそれは、物質や資源を再循環させる力を表現します。
こういったイノベーションに関心を持ち貢献しようとする人は誰でも、本質的にこの循環性のアイデアと関わるべきだと思います。「crQlr Awards」のようにアイデアを称える賞で自分のプロジェクトを発表したいと思うことは、非常に理にかなっていると思います。
この賞の価値ある重要な点は、デザイン・プロセスの中心である「循環性」の考え方をもたらし、称えていることだと思います。今日のあらゆるデザインプロセスの価値は、こうした循環性の概念に取り組み、それを称える必要があると思います。
ー今後の活動や展覧会情報などありましたら教えてください。
トリノ市の中心部にある1910年代の工業用建物「Ex Mulini Feyles(エクス・ムリーニ・フェイレス)」内に、新たな拠点を建設中です。また、デンマークのルイジアナ博物館での展覧会も予定しています。
私たちの活動やコンセプトに興味があれば、最近出版した書籍「Biodesign in the Age of Artificial Intelligence: Deep Green」で詳しく説明されているのでぜひ参考にしてみてください。
Profile: ecoLogicStudio
建築環境のためのバイオテクノロジーに特化した建築・デザイン・イノベーション会社。2005年にClaudia PasqueroとMarco Polettoによってロンドンに設立されたこのスタジオは、バイオフィリックな彫刻、生きた建築、ブルーグリーンのマスタープランなど、ユニークなポートフォリオを構築している。
Claudia Pasquero
建築家、キュレーター、作家、教育者。生物学、計算、デザインの交差点で活動する。
Marco Poletto
建築家、教育者、革新者。ecoLogicStudioとPhotosyntheticaコンソーシアムの共同設立者兼ディレクター。