クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」の新連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」( #AMGC )。
「新たな感性」をテーマに、デザイナー、アーティストなどさまざまなフィールドで活躍する世界の気鋭クリエイターにスポットをあて、創作やその国ならではのカルチャーに触れていきます。
第3回目は、AI・デジタルファッションリサーチャーのキョウダカンジさん。ファッション素材として取り入れにくいものを“ハッキング”して、新たなファッションに変える独自のスタイルで注目を集めました。近年では、デジタル技術を駆使しながら、さまざまなファッション表現を制作しています。
特に、日本の装束に魅せられたのをきっかけに、その美しさを巧みに取り入れた革新的なデザインファッションを展開しています。
前進し続けるキョウダカンジさんの創作活動やその背景にあるインスピレーションなどについてお話を伺いました。
ー AI・デジタルファッションの分野において、現在のようなデザイン技法を始めたきっかけを教えてください。
僕は高校生の頃、平日に衣服を制作し休日にそれを着て原宿へ遊びに行くのが習慣でした。
高校卒業後、僕は服飾専門学校に入学しますが早期に中退、しばらくしてゲーミングコンピューターを初めて購入しました。
当初の目的は、CLO3Dというソフトでデジタルファッションを作ってみたい という好奇心でした。
特にツールの中ではコストや重力等の表現はあれど制約はなく、無制限にファッション表現を楽しむことができる点に惹かれました。
次第にアクセサリーなどの副資材を自身で作るためにはモデリングが必要で、Benderというソフトが良さそうで、といった風にCLO3Dから繋げられる様々なツールを試しました。
その内の一つが生成AIでした。
ーデジタルを活用したデザインプロセスで、特に難しかったことや面白かったエピソードがあれば教えてください。
フィジカルの衣装を制作していた時は、特に憧れのファッションデザイナーやクリエイターはいませんでした。それよりも日本装束や怪獣といった非日常的なデザインや色彩に影響を受けていました。
数年後のある日、AIを通してファッションイメージを生成してみました。
その生成画像には、ブドウの蔦や根が絡み合ったドレスと、レザーの黒いマスクを被った二人組が映っていました。
それを見たとき「あ、これは僕で 僕以上の存在だ」と初めてファッションセンスにおいて他人に憧れを抱きました。あの時の感覚はとても衝撃的でした。
ーご自身で思う代表作を教えていただけますか。それに込めた思いやコンセプトなどについても教えてください。
去年の8月に個展を開いた際、〈光染〉という源氏物語をテーマとしたAI・デジタルファッショショーのNFTコレクションを発表しました。
〈光染〉が完成された僕の代表作と言えるのですが、今後の自分に強く影響するであろう制作物が他にあります。
現在、僕はAIファッションの個人的なリサーチプロジェクトを進めています。
〈欲としらべ〉という仮タイトルで、ファッションと人体の関係性を更新もしくは新しい角度から照らすことが目的です。例えば、現実世界では人の身体に沿って衣服がデザインされますよね、ですがAIファッションではその逆が可能です。
つまり、流体シミュレーション等を用いて布に自己表現をさせ、その形状に合わせて人体がデザインされます。近いニュアンスにコルセットや拘束具がありますがそれらの持つ強制力は無く、そこには極めて自然な関係性が垣間見れます。
その関係性がもたらす美的快感の正体は何なのか?〈欲としらべ〉は完成に至っておりませんが、今後の制作に大きな影響と価値観をもたらしてくれることを確信しています。
ー影響を受けたデザイナーやアーティストを教えてください。
僕が影響を受けた人物の一人は橋本治さんで職業は小説家、評論家、翻訳家として知られています。橋本さんの語りの特徴に”何か主題を説明する際に時代を超えた関連付け”や”ジェットコースターのように流れる文体”などがあります。
そんなスケール感のズラし方や相似律 (物事の意外なつながりと、万物の背景にあるルールを見出す、松岡正剛編集特別号のタイトル) の発見は衣装を作っていた時から現在のAIファッションリサーチまで常に意識しています。
ー生まれ育った東京または荒川区などでの暮らしが、作品・服づくりに反映されていると感じることはありますか?
自分とその周りの環境がどのように作用し合っているか考えることはとても大切だと思っています。
まず場所的に自宅近辺に繊維街・日暮里や電気街・秋葉原があったことは間違いなく制作を加速させました。
原宿もその一つで、ふらっと行けば誰かしら友達がそこにはいて、自分のスタイルを受け入れてくれたという事実は僕にとって大きいです。
求め求められを納得して出来る場の力は偉大で、そういった環境に居れる限り透明にその影響は制作に現れてくると信じています。
ーデザインのアイデアを得るために、おすすめのスポット(訪れるのが好きな場所)やインスピレーションの源となる場所を教えてください。
国会図書館は好んで行く場所ですが、ここ数カ月はパソコンの前ですね。
もちろん僕は動画・画像生成AIを筆として使用し制作を行いますが、それ以外でAIは自身のためのトレーニングツールです。
生成プロセスを考える際、言葉の繋ぎ方や異なる要素の鉢合わせを期待する遊びをしています。
例えば”彫刻をしていると、急に光のローブが現れる”なんて現実世界ではありえないですが、生成空間ではそれが平然と成立する。まるで別の世界軸がオーバーラップするように。
そんなパラレル世界を前提とした1秒先を想像する力 というものが今後の制作の幅を広げるのではと考えています。
ー2023年8月に開催されたグループ展「人形と仮想:figure and virtual」では、アーティストとのコラボレーションなども行ってましたが、新たにチャレンジされたいことはありますか。
僕はチュートリアルオタクで、赤ちゃんの模倣遊びのように共通言語であるカーソルをただ追っていく時間も好きです。PythonなどのチュートリアルをClaudeAIに作ってもらっているくらいです。
なのでデジタル彫刻からゲーム開発、映像編集などある程度のソフトやAIツールの基本操作は習得しているつもりです。
そこで、僕自身”優秀な筆”になりたいと常々考えており、デジタルのなんでも屋になってアーティストやクリエイターに筆として扱って欲しい願望があったりします。
ー今後の活動や展示情報がありましたらお知らせください。
現在リサーチ中の〈欲としらべ〉を何らかの形でまとめ発表することができたらいいなとぼんやり考えています。
その内容は完成に至ることよりも、リサーチ本体を分かりやすくパッケージングまたはシーケンスにまとめて客観視できるようにしたいです。しかしこれらを言葉にしていくためには、根本的なネットワークの仕組みからデザイン史など より体形系的な知識をつけて行く必要があり、時期は大分先になりそうです。
Profile:
AI・デジタルにおけるファッションリサーチを主軸としながら、
特別講師やエンジニア、グラフィックデザイン等幅広く活動をしている。
高校時代より原宿を拠点に自作の衣装でファッション表現を行っており、
2022年にパソコンを購入して以降 AI・デジタル表現に焦点を当てている。
【略歴】
2000年 東京都荒川区生まれ
2016年 衣装制作を始める
2022年 coconogacco プライマリーコースを受講
2023年 UltraSuperNew GalleryでAI・デジタルファッションの展示会「光染」を開催
2024年 個人リサーチプロジェクト「欲としらべ」を制作中
キョウダカンジ