クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」の新連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」( #AMGC )。
「新たな感性」をテーマに、デザイナー、アーティストなどさまざまなフィールドで活躍する世界の気鋭クリエイターにスポットをあて、創作やその国ならではのカルチャーに触れていきます。
8回目は、ハザイを「パラレルな世界の素材」と仮定し、そこから見えるもう1つの世界を描き出すクリエイティブユニット「Palab(パラボ)」の山野さんと中里さん。
彼らの活動は、生産過程から生まれる端材や見過ごされがちな素材に光をあて、独創的なアプローチで再構築し、新しい可能性を引き出し、私たちの価値観にゆるやかな変化をもたらしてくれます。
アートやデザイン、空間などあらゆる領域にわたって独自の視点を提示し続けるPalabさんに、活動の裏側やその背景にあるインスピレーションなどについてお話を伺いました。
ー Palabのお二人は、端材を中心に様々なアート制作や体験型インスタレーションを行なっていらっしゃいます。このような活動に至った経緯を教えてください。
端材に出会ったきっかけは、大学時代に群馬県で産業廃棄物処分業を行う株式会社ナカダイの工場見学でした。モノが溢れる現代において、多種多様で個性溢れる端材が処分されている姿を見た時、素材としての可能性を感じました。名前も意図も持たず、偶発的に生まれたそれらは、人間の思惑の外にある「パラレルな世界の素材」として我々には映り、だからこそ惹かれるものがありました。「勿体無い」というより「これで何かできたら面白い」という感覚が強かったです。ちなみに私たちが素材として可能性を感じたものは、漢字の「端材」でなく、カタカナの「ハザイ」として表現することで区別しています。

体験型インスタレーション : HAZAI PICKING - vol.1 イチゴ狩り的な - 2023
ー 身近な発明チャレンジ powered by NISSANにもエントリーいただいた「HAZAI SUSHI」や「HAZAI PICKING - vol.1 イチゴ狩り的な -」など、鑑賞者も体験できる施策が印象的です。体験型インスタレーションを行う理由はなんですか?
Palabの取り組みは大きく2つあります。1つは私たちが思考し、ハザイの可能性を実証実験する作品制作。もう1つがハザイの面白さを伝える体験型インスタレーションです。後者の場合、ハザイを並べるだけでは、その魅力が伝わり切らないと考えていて、私たちの視点を介したテーマ設定のある体験空間を作ることで、体験者が没入しやすい場づくりをしています。「捨てられてしまう端材だから面白い」のではなく、「面白い体験にハザイがあった」という感覚を大切にしています。

LANケーブルのハザイの可能性を実証実験する作品 : Parallel sketch 2013
ー ガラスやケーブル、木材などさまざまなハザイを利用して作品を制作していらっしゃいます。このような素材とはどのように出会っているのでしょうか?
制作拠点が東京都江東区の清澄白河にあり、江東区では「江東ブランド」と題し、工場のブランディングに力を注いでいます。その全体プロデュースを担う株式会社スマイルズと縁があった関係で、認定企業と接点を持たせてもらい、各社からハザイを提供してもらっているのが主です。あとは宿泊施設のリノベーションプロジェクトなどでも声がけを頂きます。また最近では、私たちの活動をWEBやSNS、展示などで知った方からの問い合わせでのコラボレーションも生まれています。実はハザイを集めるのって大変で、企業の技術や情報が詰まっていることが多く「一見さんお断り」のようなところがあります。なので、どう集めるかが私たちのポイントで、だからこそ集まったハザイは日常生活では目にしないユニークなものたちになっています。

ー 「パラレルな世界の素材」と捉えているハザイは、思いがけない形や質感がある一方で、アウトプットは誰にとっても馴染みあるものになっているように思います。この視点の転換を成立させるために、制作過程で特に意識していることはありますか?
制作で意識していることは、ハザイをいじりすぎないことです。ハザイそのものには意図しない偶発的な魅力があると感じているので、その魅力に感じた部分を引き出す手法を考えてます。またハザイは触感が面白いものも多いので、体験型作品の場合は触れたくなるきっかけを意識してます。私たちが考える「パラレルな世界」は、現実と地続きにあるけれど、少しズレた「もう一つの世界」のようなもの。どこかで体験したことがあったり見たことのあるテーマやモチーフをベースにしながら、そこにハザイが介入することで、意外性(=ノイズ)が生まれます。その意外性が、人々の好奇心を刺激し「参加してみたい」と思えるような場をつくり出す - それが結果的に、多くの人にハザイを知ってもらうきっかけになると考えています。

庭園などで立ち入り禁止を示す「関守石」をモチーフにした作品 : HAZAI KNOT 2024

欄間を切り取り盆栽に見立てた作品 : 欄松 RANMATSU 2023
ー Palabの活動拠点である「HAZAI BASE」では、どのような活動をされていらっしゃいますか?
清澄白河にある「HAZAI BASE」はPalabのアトリエで主に作品制作をしていますが、問い合わせがあった時には案内することもあり、ハザイや作品サンプルのショールームのような機能も兼ねてます。あとは工場の方々を招いた懇親会なども行っています。また最近ではハザイ活用のセミナーをしたりと、小規模ながら多用途な場になっています。今後は一般開放することも検討していて、ここでもハザイに触れる体験ができたらと考えています。興味のある方は是非ご連絡ください!

ー Palabのお二人の活動拠点である清澄白河で、クリエイティブなインスピレーションを得るためのおすすめのスポットはありますか?
清澄白河を含む深川エリアは、東京都現代美術館があったり、最近では小規模で特徴的なお店も増えているので、目的なく町歩きをするだけでも色々な出会いがあります。下町文化と現代的な感性が共存する場所なので、まだ訪れたことがない人にはオススメです。アトリエから徒歩3分の80年以上の歴史を持つ「常盤湯」は、2023年3月に全面リニューアルされ、まさにエリアを象徴するような銭湯だと思います。ちなみに常盤湯のアイテム制作もしていて、地域のコラボレーション先の1つでもあります。
ー 表現活動を行う上で大切にされていることはどのようなことでしょうか。
シンプルに面白いと感じる気持ちです。表現活動を行う上で意味や意義、文脈も考察しますが、第一印象において「なんか気になる」や「なんだろうこれ」と純粋な興味をそそるアウトプットを心がけています。鑑賞者や体験者の気持ちにたった時、興味を持てば深く知りたい欲が掻き立てられると思いますが、入口で興味を持てない場合、伝えたいことが伝わらない可能性があると考えています。今後もパラボが感じたハザイの面白さを多くの人に届けられたらと思っています。
ー 今後チャレンジしたいことなどありましたら教えてください。
2025年は5月に2つの展示があります。両方とも「回転ハザイ寿司」の体験型インスタレーションです。1つは5月3日、4日のゴールデンウィークに虎ノ門ヒルズで開催される「TORANOMON HILLS GW Special Event ~PLAY PARK」で、ステーションタワー2Fに出展します。もう1つは5月16日から18日の「Tokyo Delicious Museum」で、食のイベントに食べられない寿司屋として出展します。展示情報や活動記録はインスタグラムを中心に発信していますので、興味を持ってもらえた方はお越しいただけたら嬉しいです。

回転ハザイ寿司 会場イメージ

Palab(パラボ)
大学在籍時の2012年頃より活動を開始。産業廃棄物など偶発的に生まれたハザイを「パラレルな世界の素材」と仮定し、そこから見えるもう1つの世界を描き出すラボのようなクリエイティブユニット。工場から生まれる【産業のハザイ】や、普段は見過ごされる風景などの【街のハザイ】を基に企画・制作を行う。
ヤマノ タカトシ
1989年生まれ、多摩美術大学 環境デザイン学科 卒業。
ナカザト ヨウスケ
1987年生まれ、東京芸術大学 大学院 先端芸術表現専攻 修了。