2023年12月8日に渋谷のロフトワークで「Year End Party 2023(YEP)」が開催されました。
今年のテーマは「GATE」。ゲートの向こう側にいる人々にさまざまな出会いや交流を通じて、新たな物語の始まるきっかけとなることを願い、ロフトワークメンバーが各チームごとに展示を行い来場者をアテンドしました。
AWRDでは、日頃オンラインシーンの多いなか、リアル展示を楽しんでいただける「AWRD Exhibition」を開催。今年の私達のテーマは「体験できるAWRD」です。2023年に開催されたプロジェクトのなかから3つのプロジェクトを展示しました。ここでは、AWRDの出展の様子をレポートします。
多様なジャンルのプロジェクトがひとつの展示空間に
展示スペースでは「crQlr Awards 2023」「身近な発明チャレンジ powered by NISSAN」「QUICK Data Design Challenge 2023」と、それぞれ異なる分野からのプロジェクトで受賞したクリエイティブなアイデアが一つの空間に集まりました。
展示では、インタラクティブであったり、デジタルを駆使した作品など、各プロジェクトの独創性を際立たせ、技術革新、持続可能なデザイン、先進的なテクノロジーなど、プロジェクトがもたらす社会へのインパクトについて、来場者にご覧いただきました。
crQlr Awards 2023
crQlr Awards(サーキュラー・アワード)は、循環型経済の実現に欠かせない「サーキュラー・デザイン」を実践するには、既存の産業における実践的なノウハウだけでなく、国内外の事例に触れて視野を広げ、起業家やアーティストなど幅広い分野のクリエイティビティを活用する総合力が必要という思いのもと、その方法のひとつとして、2021年にスタートしたアワードです。
会場では、2022年に受賞された53点から3点が会場に展示されました。
開催中の2023年に集まったプロジェクト140点全てを、柱にラッピングした巨大なポスターにて紹介しました。
https://crqlr.com/2023/ja/
「量とサイクルへの視点」賞
【日本初】災害備蓄品から生まれたクラフトビール
crQlr Awards には、世の中に実装されているサービスやプロダクトが多く応募されます。YEPを通して循環型経済の取り組みを参加者に自然に触れてもらえるよう、FabCafeで提供するドリンクの一部に「災害備蓄品から生まれたクラフトビール」を採用し、会場で提供しました。
コンセプト:東日本大震災以降、地震や台風、豪雨や大雪など災害に備え、近年では街中でロングライフフードや災害備蓄品を見かける機会が増え、もしもの時のために備える人が増えてきました。
家庭だけでなく、自治体や企業も災害備蓄品を備蓄する一方で、災害用備蓄品は一定の期間を超える度に更新が必要となるため、そのまま廃棄を余儀なくされるケースも少なくありません。廃棄にならないよう、自治体や企業で職員・社員らに配布を行うところもあるものの、大量に備蓄している自治体や大企業などでは、災害備蓄品を職員・社員らに配布をしても余ってしまうのが現状です。
今回私たちは、廃棄間近の災害備蓄品をクラフトビール(麦芽比率の都合上、品目は発泡酒)へアップサイクルすることを試みました。
審査員コメント:定期的にまとまった量が賞味期限切れとなって廃棄される災害備蓄食材を、なんとか処理しないといけないものではなく「資源」と捉える視点にはっとさせられました。単に廃棄から救出するだけでなく、乾パンやアルファ米など、従来だとわざわざビールづくりに使うことがなさそうな材料を用いることで独自の風味が生まれそうな点も興味深い。そして、そんな裏側を知らなくても思わず手に取りたくなるラベル、飲んでみたい!とシンプルに思わせる力強さが素敵です。「エクスキューズなしでも欲しくなる」は持続的な流通のためにきっととても大事。
木下 浩佑(MTRL / FabCafe Kyoto マーケティング & プロデュース)
詳細URL:https://crqlr.com/2022/ja/winners/japans-first-craft-beer-made-from-disaster-stockpiles/
New Type Natural Capital Prize
「死と循環」をテーマにした、インパクトあるプロジェクトですが、ひとも植物も必ず巡る事象でもあります。一年を振り返るきっかけにもなるYEPにふさわしいプロジェクトのひとつとしてパネル展示しました。
コンセプト: 「20年後、あなたの体は完全に土に還り生態系の物質循環に組み込まれます」そんな葬儀が当たり前になった時代に死の捉え方は変わりうるだろうか?
本作品は、故人の遺体を土に還し、微生物に分解してもらうことで大きな生態系の循環に組み込む、”死と循環”をテーマにした未来に起こりうる新しい埋葬の在り方を提案する。
審査員コメント:日本における社会課題に目を向け、墓石の管理、土地利用や確保等の長期的未来課題を、自由選択社会の中で、一つの選択肢として、自然資本に変えることを提案している視点はユニーク。墓地埋葬法による法的課題もあると思われるが、そこもクリアし、循環するあり方として期待したい。
石坂 典子(石坂産業株式会社 代表取締役)
詳細URL : https://crqlr.com/2022/ja/winners/true-circulation-death-connects-birth/
身近な発明チャレンジ powered by NISSAN
日産自動車株式会社が主催した「身近な発明チャレンジ powered by NISSAN」。
将来を担う若い世代と共に未来の移動体験やものづくりのアイディアを共創するプロジェクト「DRIVE MYSELF PROJECT」の一環として開催されました。
プロジェクトでは、ブリコラージュ(Bricolage)をテーマに、身近なものを使って生活を豊かにするアイデアを募集。受賞された13点から3点を会場に展示しました。
https://awrd.com/award/cdc2023
総合賞:使い捨てない天然素材の歯ブラシ 日本製
受賞者:ナエス - Nhes.
私達の身の周りには多くの使い捨て製品があります。歯ブラシもその一つだと思います。天然木と天然毛を素材としたこの歯ブラシは一本一本その風合いが少しずつ異なり、使い始めたら愛着の沸く自分だけのプロダクトになりそうです。そんな手に取ってから使い続けることで価値が上がっていくプロダクトはわたしたちの生活を豊かにしてくれそうです。
「ブリコラージュ」をとてもよく体現しているこのプロダクトを展示しました。
コンセプト: Nhes.自然に還る歯ブラシ t u r a l i s t は、環境配慮の為プラスチックを一切使用していません。天然木と天然毛を歯ブラシの材料として採用しました。
天然木は家具職人が椅子を製造する際にどうしても発生する「端材」ブナの木を活用しています。天然毛は主に食肉用として育てられた馬や豚の大切な生命の副産物としていただいています。
詳細URL:https://www.instagram.com/p/Cwv35ttyJA5/
キュレーターコメント:今回のテーマはブリコラージュでした。ハイテクやエンジニアリングとは異なるアプローチでサステナブルな未来に個人レベルでチャレンジできる、それがブリコラージュの意義です。そういう意味で歯ブラシのような一見使い捨てしてしまいそうな小さなものを使い続けるためのサービスが存在しているというのは秀逸なアイデアだと思いました。結局のところ小さな知恵の積み重ねによる全員参加の活動こそが一番サステナブルに効くのだと思います。車のような大きくて重たいものでも是非見習っていきたいと思います。
上田哲郎(日産総合研究所 モビリティ&AI研究所エキスパートリーダー)
総合賞:ボトルキャップ循環ガチャ
受賞者:ファブラボ広島安芸高田・渡辺 洋一郎
「ボトルキャップ循環ガチャ」は、その設計図がオープンソースとなっており、だれでもデータを取得し、レーザー作成することが可能です。
実際に展示したガチャもFabCafeのレーザーカッターを使い、組み立てをおこないました。ペットボトルのキャップで回せるこのガチャは、会場でも多くの人に楽しんでいただけ「思わずやってみたくなる体験」そのものでした。
コンセプト:以前から環境保全やSDGsというのはどこか他人事で多くの人々にとってなかなか自分事にならないという問題意識を持っていた。“思わずやってみたくなる体験” を創出し、その体験を通じて子供の頃から環境保全やSDGsを身近に感じる、考えるといったコトを日常にするエコシステムを創りたいと思ったのが本「ボトルキャップ循環ガチャ」の開発/発明のきっかけ。
詳細URL:https://awrd.com/creatives/detail/14742103
キュレーターコメント : 教育体験の成功とは、参加した人たちが自分自身のやり方で、そのテーマをもっと知りたいと思うようになることです。ガチャが世界のポップ・カルチャーで注目を集めるなか、このプロジェクトは若い世代にリサイクルを遊び心あふれる方法で伝えているという点で、とても意義深いと感じます。カプセルの中身をデザインするという発想も面白く、学習体験を次のレベルへと押し上げています。このプロジェクトは、オープンソースとして公開されていて、誰でも、遊び心にあふれた学びと、自分なりのリサイクルの形を作り上げることができます。古いものと新しいもの、遊び心と学びの融合(remix)は、究極のブリコラージュだと私は思います。 (日本語訳)
Kyle Li(パーソンズ美術大学 MFAデザイン&テクノロジー・プログラム・ディレクター)
次世代賞:The Strawless Turtle Pak
受賞者:Malika Chopra
今すでにある機能に工夫を加えることで、新たな素材と掛け合わせなくても「その手があったか!」と思わせてくれる新たなアイデアが詰まった作品です。私達に身近な紙パックの新解釈を皆さんにも見ていただきたくて展示させていただきました。
コンセプト:外出先での飲用を想定した飲料パッケージで、プラスチック汚染が海洋生物に与える影響との闘いを象徴しています。折り紙を使ってデザインされた標準サイズの飲料パックは、亀の甲羅を模して海の縁と青の色調で着色された三角形の折り目がついています。「TurtlePak」という仮想ブランドのために作られたもので、環境への意識が高いユーザーをターゲットとして想定しています。外出先でストローを使う必要性をなくすことで、人々に飲料習慣を見直すよう促すようなデザインです。
詳細URL:https://www.instagram.com/p/Cxdl8NnLjN4/
キュレーターコメント: 社会をもっとよくする世界のアイデアを日々発信するメディアの編集者として、「草ストロー」や「竹ストロー」などプラスチックに変わるさまざまな代替素材ストローを取り上げてきたのですが、この「The Strawless Turtle Pak」は、そもそも紙パック容器の形を工夫すればストローはいらないのでは、と根本的なマインドを問い直してくれるプロジェクトでした。日本では誰もが触れたことのある「折り紙」をうまく使い、できるだけ少ないリソースでアイテムを作っていることも評価できた点です。外出先で飲む想定ということで、一度使った後すぐに捨てなくていい設計ができたら素晴らしいですね。
戸沼君香(「IDEAS FOR GOOD」編集長)
QUICK Data Design Challenge 2023
データで社会を見える化する会社、株式会社QUICKが主催した「QUICK Data Design Challenge 2023」。データから読み取れる内容をインフォグラフィック、データビジュアライゼーション、動画、写真、ウェブサイトなど、クリエイティブな表現で作品を募集しました。会場では、新しいデータの可能性を広げた受賞作品5点のなかから、2作品が展示されました。
https://awrd.com/award/quick_data_design_challenge_2023
グランプリ:いちご見本帳
受賞者:川明日香
データビジュアライズは「見る」だけじゃなくて、自身で「触る」こともできるんです!参加者の皆さんにもぜひ体感してほしくて、体験ブースをご用意しました。
コンセプト:いちごの形を単純化し、品種・生産地・その品種が生まれた年・品種の交配などを統合的に見ることのできるサイトです。ぜひ、マウスを動かしたりクリックしたりしながらいちご情報の面白さを体感してみてください。
詳細URL:https://awrd.com/creatives/detail/14348441
審査員コメント:スーパーで日常的に見かける「いちご」。どの産地やブランドを選べば良いのかいつも迷ってしまいます。作者はそのようなごく普通の生活のシーンに対して、興味と好奇心を持ち、さらにそこにリサーチと可視化を持ち込むことで、見事なツールに仕上げました。「いちご見本帳」では、時間の関係・空間の関係・要素同士の関係の3つが、データビジュアライゼーションの基礎的な手法を用いて端的に表現されています。可視化のオリジナリティやグラフィックデザインの品質については、より高いレベルへの向上の余地がありますが、このツールを触っていると、いちごのことがよく分かった気がしますし、明日からの自分の消費行動が変わりそうな気がします。データビジュアライゼーションならではのファクト駆動型の認知変容・行動変容の起点としての可能性を大きく評価しました。
田川欣哉(Takram Japan(株)代表取締役/デザインエンジニア)
準グランプリ:Ocean Pandæmonium -The Noisy Plasticscape-
受賞者:榊原礼彩
データの可視化をまさかこんな形で実現してしまうなんて、と驚かれる方も多いと思います。データをデザインだけでなく、アートの視点で解釈したときこんな表現も生まれるということを体感いただけたのではないでしょうか。
コンセプト:私が海の底に住むことはできないが、水の膜に穴をあけ、海の住人に耳を澄ませることはできるかもしれない。
本作品は、人新世における人間の位置付けと、海の生物に及ぼす影響についてのサウンドインスタレーションである。現代、海洋環境におけるプラスチックの有害性が議論されているが、人間が陸から眺める海は穏やかで美しく、微塵も問題を感じさせない。しかし水の膜を隔てた海では、生命にとって危機的な状況が広がっている。我々人間は海に住むことはできず、その境界を超えることはできない。そこで、仮想的な海を創り上げ、音というレンズを通じて海の状況と歴史を覗き込む。
詳細URL:https://awrd.com/creatives/detail/14342863
審査員コメント:2次元的な表現が多い中で、立体的に5感に訴える表現を完成度高く行っている点が評価されました。審査会での議論の中では、データから表現を立ち上げているというよりは、語りたいストーリーが先にあり、そのためにデータを利用していると感じられる点が指摘され、データビジュアライゼーションのアワードとしての評価の仕方が問われる一面もありました。そういった点も含めて、新しく始まったこのアワードが今後、より多様性のある表現の受け皿としてユニークな存在になっていくための一つの試金石のような作品とも言えるでしょう。
exonemo(エキソニモ)アーティスト
AWRD編集後記
会場では、各プロジェクトの主催者や受賞者など、多くの方々にお越しいただき熱気あふれるイベントとなりました。
AWRDは、これまで接点を得られなかったクリエイターとつながる機会になることが魅力の一つでもありますが、今回のイベントでは、プロジェクトの枠を超えた新たな出会いの場にもなりました。
2024年もさまざまなチャレンジを支えるプラットフォームとして、プロジェクトを支え、広げ、新たなつながりのきっかけを創出していきます。
展示・設営にご協力いただいた受賞者のみなさま、本当にありがとうございました。
今年もこの一年で開催されたプロジェクト、そして受賞された方々をご紹介する場を持てたことをとても嬉しく思っています。
今回ご紹介した3つのプロジェクトがそうであるように、多様なテーマ、題材、プロジェクトが目指す未来はそれぞれ異なります。それは、このAWRDというサービスが目指し、体現している「1位を決めることだけがAWRDじゃない」「新たな未来の兆しやテーマの輪郭をAWRDを通して見出す」というものとも通じています。
来年もこの思いを大切に様々なプロジェクトをご紹介できるように邁進していきます!(関井)
今回、展示にご協力いただいた皆様にお礼申し上げます。広島、大阪など遠方からも東京へお越しいただき、1日だけの賑やかな展示会となりました。3つのアワードの受賞プロジェクトをご紹介しましたが、実際に作品を体験できたり、プロダクトの現物を触って試してみたり、試飲があったりと、どんなテーマでどんな視点で受賞したのかをご紹介でき、来場者にもとても興味を持ってもらえました。AWRDへご応募いただいたプロジェクトや作品をリアルな場所でご紹介していく機会を増やしていきたいです。(松田)
今回の展示にご協力・ご参加いただき、誠にありがとうございました。受賞者の皆様のおかげで、AWRDチームはこの賑やかなYear End Partyで優れた受賞作品を展示し、2023年のAWRDプロジェクトから3つをご紹介できることとなりました。会場では、参加者が受賞プロジェクトを実際に体験し、受賞者や審査員と直接交流できる機会をつくれたことに喜びを感じています。AWRDチームの一員として、このような機会に参加できて光栄に思います。来年もAWRDを通じて多くのクリエイターを集め、さまざまな分野のプロジェクトを再び多くの方々にご紹介できることを願っております。(Ming)