3都市をめぐる“循環”の展示 crQlr Awards Exhibition
循環型経済の推進を目指すプロジェクトやアイデアを募集するグローバルアワード「crQlr Awards 2024」。4回目の開催となった2024年は、サービスや事業を展開する143のプロジェクトが47カ国からエントリーされました。
選ばれたプロジェクトは、10名の審査員から独自の賞と評価コメントが贈られると共に、特別賞を含む受賞作品の一部は、2025年の春から秋にかけてFabCafe(東京・大阪・名古屋)で巡回した「crQlr Awards Exhibition 2025」で披露されました。
「crQlr Awards」は、受賞を讃えるアワードにとどまらず、未来の社会や循環型経済を目指す多様なアプローチを具体的に提案する実践的な場でもあります。本展は、世界各地のサーキュラーデザインの実践を可視化し、つなぎ直すことで、地域のクリエイターや学生、企業関係者など、さまざまな立場の人々が出会い語り合うきっかけを目指しました。ここでは3都市で開催された展示の様子をレポートします。
会期
・FabCafe Tokyo:2025.3.6 (木) – 3.26 (水)
・FabCafe Kyoto:2025.4.29 (火) (祝) – 5.31 (土)
・環境デーなごや2025:2025.09.13 (土)

crQlr Awards Exhibition Tokyo──Living Loops 生きている環
巡回展の共通テーマは「Living Loops 生きている環」。展示の幕開けとなったFabCafe Tokyoでは、自然とテクノロジーとの交差点にフォーカスし、「サーキュラーバイオエコノミー」を推し進めるプロジェクト・アイデアにスポットライトを当てた特別賞※の3プロジェクトのほか、これからのサーキュラーデザインを先導するような先鋭的プロジェクトが並び、来場者の関心を集めました。
※crQlr Awards 2024で特別賞を受賞したプロジェクトは、受賞特典としてFabCafeでの展示・プレゼンテーションの機会が与えられます。
特別賞:生物発光でアートの未来とその先を照らす
Bio-Moon Lab

深海生物の約80~90%は生物発光をし、渦鞭毛藻 (うずべんそうもう) のような藻類は自然発光において重要な役割を果たしています。この現象を利用することで、環境に優しい照明の代替案を提示すると同時に、人々と海洋生態系とのより深いつながりを育みます。
Bio-Moon Lab (バイオ・ムーン・ラボ) は、アート、持続可能性、科学を融合させ、生物発光を探求する学際的プロジェクトです。世界中の海洋環境でよくみられる細菌のひとつ、ビブリオ・フィシェリ菌をシャーレや液体溶液で培養することで、人工照明に代わる持続可能な照明として「バイオライト」を開発。現代アートという表現を通じて、照明のありかたを再定義すると同時に、テクノロジーと自然との関係性をより調和させることを目指しています。
URL:https://crqlr.com/ja/crqlr-awards/2024/winners/bio-moon-lab/

特別賞:捨ててしまうもので清潔になりながら、現状に疑問を投げかける
Piss Soap

Piss Soap は、極めてシンプルな素材でありながら、社会的あるいは概念的に広範な要素が絡まりあったプロジェクトです。このプロジェクトで作られる石鹸は、使用済みの食用油、人間の尿、木灰といった人間の活動によって生じた廃棄物から作られるという点で、逸脱的でありつつも再生可能な試みといえます。
また見方を変えると、気候変動に対する共同体的な取り組みでもあり、思いやりやコミュニティ、地域社会におけるソリューションを取り入れることで、循環型経済の文脈における今日の潮流を覆すような活動でもあります。
URL:https://crqlr.com/crqlr-awards/2024/winners/piss-soap/

特別賞:センサーは落ち葉のように土に還れるのか?
「土に還る」循環型センサデバイス

温度、湿度、土壌水分などの環境情報を収集することは農業や都市管理には不可欠です。しかしセンサを密集して設置することは環境負荷を増加することにつながります。そこで、本プロジェクトでは植物繊維や土壌成分、天然油脂を活用することで、環境に調和した「土に還る」センサを開発しています。まさに落ち葉のように、自然界のエコシステムにおいて循環するのです。
湿度、土壌水分量を計測するセンサのプロトタイプ版がすでに開発されています。この生分解性センサは最終的には生物によって分解され、大地に還っていきます。
URL:https://crqlr.com/ja/crqlr-awards/2024/winners/return-to-the-soil-circular-sensors/

展示に加え、2025年3月8日(土)には、審査員や受賞者たちと共にサーキュラーバイオエコノミーの実現に向けたインスピレーショントーク&交流会も開催しました。会場では活発な議論が交わされ、熱量の高い対話の場となりました。
crQlr Awards Exhibition Osaka

続くFabCafe Osakaでは、生活の延長にある循環型のプロジェクトに着目し、特別賞を受賞したプロジェクトに加えて、過去の受賞プロジェクトなども披露し、循環型社会への関わり方がより身近に感じるような展示となりました。
FabCafe Osakaは、2025年にオープンしたばかりの新拠点でもあり、本展を通じて多くの来場者とつながりが生まれ、今後のコミュニティ形成や共創の拠点としての可能性を強く感じさせる機会となりました。
2021年受賞:使用済みの食用油に第二の命を与えよう
SOUJI

SOUJIは、鉱物と植物由来の成分で作られた液体で、苛性ソーダや有害物質を使わずに、使用済みの食用油をわずか1分で環境に優しい多目的洗剤に変えることができます。使用済み油1リットルは最大100万リットルの水を汚染する可能性があります。スペインでは60%以上の廃油が直接下水に流れ込み、生態系を破壊し、水処理コストを大幅に増加させています。
SOUJIは、家庭や事業者にとって安全で持続可能な解決策を提供し、食器洗い、洗濯、床掃除用の洗剤として油をリサイクルし、汚染、プラスチック廃棄物、環境負荷を軽減します。
URL:https://crqlr.com/ja/crqlr-awards/2021/winners/2021_36_souji/
2024年受賞:3Dプリンターによるモジュール式サンゴ礁システムでサンゴ礁を復活させる
The Akasango reef, an homage to the Japanese Red Coral

rrreefプロジェクトは、2034年までに沿岸のサンゴ礁の1%を再生し、海洋の生物多様性を回復させることで、より健全な海と地域社会を目指しています。純粋な粘土で作られたエコ設計のモジュール式リーフシステムを使用し、自然のサンゴ礁を模倣してサンゴの定着と海洋生物の成長を促進します。これらの3Dプリントされたブロックは、海洋生物にとって理想的な生息地を提供します。
沖縄沖で進行中の200㎡の再生プロジェクト「Akasango Reef」は、現在ではほとんど絶滅してしまった赤サンゴの存在を象徴しています。沿岸の回復力を高め、海洋生態系を保護することで、rrreefはサンゴ礁の再生を支援し、沿岸地域社会を浸食や気候変動から守っています。
URL:https://crqlr.com/ja/crqlr-awards/2024/winners/the-akasango-reef-an-homage-to-the-japanese-red-coral/
2022年特別賞:日本の里山の食用植物を探求・保存・活用する
日本草木研究所

日本草木研究所は、日本の里山の植物資源の可能性を探求し、在来植物を私たちの食卓や生活環境の自然な一部とすることを目指しています。日本各地の山々と連携し、在来の食用植物を活用することで、地域産業の活性化、持続可能な食料供給、そして国際的な競争力の強化を推進しています。
日本草木研究所は、従来建材として見られてきた山の植物資源に新たな価値を与え、ジン、シロップ、塩などの食品として生まれ変わらせています。フトウカズラの山椒、ニッケイのシナモン、クロモジなどの植物を取り上げることで、日本の在来植物が持つ未開拓の食の可能性を示しています。
URL:https://crqlr.com/2022/ja/winners/nihon-kusaki-lab/

crQlr Awards Exhibition Nagoya
FabCafe Nagoyaでは、店舗を飛び出し「環境デーなごや2025」会場にて展示を実施。環境意識の高い市民や企業、学生に向けて、crQlr Awardsの受賞プロジェクトのPiss Soap、SOUji、日本草木研究所が紹介されました。

展示の詳細は以下リンクよりご覧いただけます。
展示レポート:https://note.com/fabcafe_nagoya/n/n21b5a5cccab8
アワードから広がる「循環の生態系」
巡回展では、受賞プロジェクトに触れることでインスピレーションを受けた来場者が、実践者へと転じるきっかけとなったのではないでしょうか。このように「知る→共感→関わる」という循環もcrQlrが目指す未来の姿でもあります。今後もアワードの枠を超えた活動にご期待ください。
関連リンク
crQlr:https://crqlr.com/ja/
crQlr 公式Instagram:https://www.instagram.com/crqlr_awards/
crQlr Awards 2024:https://awrd.com/award/crqlr-2024