クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」の新連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」(#AMGC)。「新たな感性」をテーマに、デザイナー、アーティストなどさまざまなフィールドで活躍する世界の気鋭クリエイターにスポットをあて、創作やその国ならではのカルチャーに触れていきます。
12回目は、彫刻家の本岡景太さん。染色した紙に酢酸ビニル系の樹脂を揉み込み、型に貼り付けていく「歪曲張り子」という独自の技法を編み出し、平面と立体の境界に新たな像を立ち上げる作品を制作しています。2026年2月20日からは、臨済宗大本山 東福寺での個展開催も控えています。
今回、独自技法が生まれた背景や、素材と向き合う創作のプロセス、そしてこれからの挑戦について伺いました。
ー本岡さんは「歪曲張り子」という独自の技法を編み出されました。誕生のきっかけを教えてください。
2020年にこの制作技法を始めました。それ以前から紙を貼って彫刻作品を作っていましたが、この年特に紙を貼る方法を徹底的に実験しました。当時私は大学3年生で、コロナ禍により自宅学習を余儀なくされました。そこで紙と接着剤での制作は、場所と時間を選ばず行うことができ、膨大な実験の成果として「歪曲張り子」を発見しました。
ちょうどその少し前のタイミングで、彫刻を作ることに疑問を持ってしまい、制作ができなくなっていました。絵やレリーフ制作だけに手が動き、作品が他面的になっていくことを極度に恐れていたようです。
「歪曲張り子」とは、紙を型に貼り、その型から引き剥がした塗膜を支持体に張り付ける制作技法ですが、これは彫刻というよりも絵を描くことと密接な関係を持つ彫刻技法なのだと思います。当時の私は、「歪曲張り子」を通して彫刻の作れなさを乗り越えました。

ー 制作のプロセスで大切にしている視点や普段意識していることはなんですか?
制作の中では、客観的な判断ができない段階があります。例えば、素材選びや作品のサイズ決定などの過程では一歩引いた立場から判断ができますが、特に作品の全体像を構想するタイミングや、彫刻の形態が作り上げられて、実際の構成が決定される段階では、客観視では物足りない時があります。
そのような場合には、主観的で未知な判断を恐れないことを大切にしています。私の場合、制作中に思考が整理されると作品が新しさを含まなくなってしまいます。主観的で未知な判断には普遍性がある場合もあり、そのような結果生まれてきてしまう形や状況を、受けとめることが意外と重要です。

ー 立体作品は、鑑賞者が「どう近づくか」で印象が大きく変わります。作品と鑑賞者の距離や動線など、どのように意識されてますか?
作品を作るときと展示をするときとで、距離や視線の作り方には別々の方法を用いています。
作品を作るときには、自分の身体がひとつの基準になっています。例えば、作品の全容が視界に収まる位置(実際の直線が本当に直線に見えるまで作品から離れた位置)を起点に、そこから少し近づいたり横に動いたりする場合にどのように作品が変化するか、あるいは変化しないのかが、制作の中で関わっています。
一方で展示をするときには、鑑賞者が作品を最初に発見する位置が基準になることが多いです。これは作品が置かれる建築との対話なのだと思います。鑑賞する時間の中で、作品が建築のどこと結び付けられて、どこで切り離されるのかを探り、見つけていくことは、紙をはりつけることととても似た意識です。

ー ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025では「マイナビ ART AWARD」最優秀賞を受賞されました。受賞は、本岡さんの制作やキャリアにどのような変化や視点の広がりをもたらしましたか?
受賞は、制作をより広い視野で見直すきっかけになったと思います。展示の出来はさておき、2020年から5年間にわたる成果物を、大勢の方々の前で、それにこれまで活動してきた関東ではない場所で、一堂に発表でき評価いただけたことはとても良い経験でした。
その影響もあってか、2025年は私の制作が大きく変化しました。これまでは染めた紙のみを制作の母材として扱い、自分の中で絵画と彫刻の構造を向かい合わせていましたが、最近は漫画やビニールプールといった既製品の絵に注目し、絵画と彫刻、形態と表象といった関係性に対してより共有できるリテラルなあり方が制作に用いられるようになりました。「歪曲張り子」を中心とするこれまでの制作が自分の中で実り始め、展開を起こすことができています。

ー2026年には臨済宗大本山 東福寺での個展が控えています。歴史ある空間での展示は、制作に影響していますか?
現時点では、作品が展示空間と混ざらない関係を意識していて、その意味で影響を受けています。これまで何度か下見をさせていただいた中で、お寺が強烈な身体感覚を誘ってくる場所だと感じました。部屋に差す陽の光の感じや、反射や吸収の仕方、それらが流れて柱の間を通り、外の山へと行き来していく感じ。小宇宙が建築空間に広げられたようで、この場所固有の力学が成り立っていました。また宗教建築特有の礼節の行き渡った建築単位がありました。
そのような、お寺が持つ感覚的な作用や社会的なあり方に対して、対立しつつ対話しうるかもしれない素材や形を制作中の彫刻に見たとき、自分一人の制作では生まれなかったような驚きを感じているところです。展覧会では、彫刻の輪郭が強調されることで、場とのより対等な関係性を築けないかと考えています。

ー今年から来年にかけて、京都との関係が深まっていますね。本岡さんにとって京都はどんな場所になりそうですか?
京都は、重要な庭園や古美術、美味しくて趣深い料理など、文化的な土壌の強さがあり、作品を展示する際には圧倒されそうな時があります。それでも私の作品に真正面から向き合ってくださる方々が多く、安心して作品でリスクを冒すことができます。
庭園も古美術も京料理も、彫刻や現代アートとは無関係ではなく、造形的な部分での繋がりや対抗意識を感じることができます。挑戦できて厳しく判断いただける場があることは、今の私にとってとても貴重です。これからもご縁をいただけるように、ひとつひとつ全力で臨みたいです。

ー今後取り組みたい新たな表現領域や挑戦があれば教えてください。
最近は、「間接的な表現」という彫刻の制作方法について考えています。
私のこれまでの作品は、絵画的な要素を彫刻の中に取り入れることで、表象としての見方を彫刻に与えてきました。それによって、彫刻は形態の直接的な把握に収まらず、表象としての見え方と形態としての見え方とが相互に引っ張り合うような状態が生まれていたと思います。
この引っ張り合いを作品の中で最も重視してしまうことを、「間接的な表現」として考えています。「間接的な表現」は、このような「表象」と「形態」の関係項のみならず、さまざまな関係項、芸術分野で応用できる考え方だと思いますが、今はこれに成果を上げたいと思っています。
「間接的な表現」を行なっている人を見つけて、一緒に展覧会を企画することや、美術史的な立ち位置を模索したいと考えています。
本岡 景太 | Keita Motooka
彫刻家
1999年広島県生まれ。2024年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。同研究領域博士後期課程在学中。染色した紙を貼り付ける制作方法で彫刻作品を制作する。彫刻と絵画の中間に位置するような作品を生み出し、芸術の探求を行っている。

Links
Instagram:https://www.instagram.com/motonini3768/
X:https://x.com/KeitaMotooka
■イベント情報
本岡景太個展「IMMANENT FOLD:図像と物質の内在的折り目」
会期:2026年2月20日(金)~3月1日(日)
URL:https://artists-fair.kyoto/events/
同時開催:ARTISTS’ FAIR KYOTO 2026
メイン会場
会期:2026年2月21日(土)~2月23日(月・祝)
AFK Resonance Exhibition 会場
会期:2026年2月21日(土)~3月1日(日)
URL:https://artists-fair.kyoto/
編集:AWRD編集部
