クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」の新連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」(#AMGC)。「新たな感性」をテーマに、デザイナー、アーティストなどさまざまなフィールドで活躍する世界の気鋭クリエイターにスポットをあて、創作やその国ならではのカルチャーに触れていきます。
11回目は、アートディレクター/グラフィックアーティストの奥山太貴さん。ネオンサインの明滅をモチーフにしたループアニメーションやインスタレーションなどの創作活動をはじめ、文化芸術からグローバルブランドまで幅広く活動を展開し、人や都市、コミュニティをつなぐ独自の視覚体験を提示しています。さらに、9月に開催される「六本木アートナイト2025」では、大型インスタレーションを発表予定です。
今回、奥山さんの表現が育まれた背景や創作のプロセス、これから挑む新たな領域についてお話を伺いました。
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BOTTEGA VENETA x Okuyama Taiki
POPUP "Wardrobe 03" INSTALLATION
2021-2022
Hankyu Umeda 1F
ー奥山さんといえば、ネオンサインをモチーフにしたループアニメーションやインスタレーションなど独特な視覚体験を提示されているのが印象的です。この表現はどのようなきっかけや体験から生まれたのでしょうか?
以前、GIFアニメーション作品を制作してTumblrで公開していたんですが、あるときそれがディスプレイ上の単純な光の明滅にすぎないと気づいたんです。その現象が、幼少期に見ていた田園地帯に浮かぶ遊技場のネオンと重なりました。
動的に見えていた看板も、よく見るとネオン管1本1本の明滅のみで構成されている。幼いながらにそのミニマルな反復から生まれてくる強く眩い瞬きのダイナミズムが、閉鎖的な田舎の夜を外の世界へ繋げる灯火のようにも感じました。
この原風景がきっかけで、描線の明滅のみで構成する作品を制作するようになります。
そして、明滅の反復はダンス音楽のように、永遠と刹那を感じさせ、高揚感を生み出しました。
ーボッテガ・ヴェネタやエルメス、ザディグ エ ヴォルテールなど、国際的ブランドとのコラボレーションを手がけていらっしゃいます。グローバルプロジェクトでは、どのようなプロセスを経て作品を形にしていくのでしょうか。重視している視点や学びについて教えてください。
文化の異なるチームと仕事をする際は、まず相手のビジョンや文脈を丁寧に理解し、そこに自分の表現をどう重ねられるかを探ります。ブランドの世界観と自分のビジュアルがどうコミュニケーションするかを大切にしています。
グローバルプロジェクトでは、アーティストやそのクリエイティブへの理解とリスペクトが高く、とても豊かな制作環境だと感じます。〈最優先されるべきは作品のクオリティである〉というものづくりへの真摯な姿勢があり、助言や指示もそれに基づいているので、応答する形で常に自分の新たな視覚表現を引き出してくれます。
自分のスタイルというのは、これまでのコラボレーションの中で形づくられてきたようにさえ思います。

ー 「アート」と「デザイン」二つの領域を横断することについて、意識されていることはありますか?
二つは完全に分かれているわけではないので、あまり違いを意識していないかもしれません。
ただ、アーティストとしての制作に対して、自分の中のアートディレクター的/デザイナー的な視点が作用している瞬間は確かにあります。
さらに、「デザイン」で培った構成力や情報整理の技術が「アート」にも活きていて、「アート」で得た造形や色彩への純度が「デザイン」に影響を与えているようにも感じます。その行き来が自分の表現をより豊かにしているのかもしれません。
また、「デザイン」は「アート」のスピンオフでしかなく、過程や方法は違っても目指すべき最終目的地は同じだとも考えています。その追求のために領域を横断するのだと思います。

ー9月に開催される「六本木アートナイト2025」に参加されます。昼から夜まで屋外に展示されるというパブリックな場で、どのようなメッセージとともに作品を展開される予定でしょうか?
私が幼少期に田園地帯で見た遊技場のネオンを灯火に感じたように、都市空間においても人工的な光の明滅は人や場所を結びつける存在だと考えています。
遠くからでも目を引き、どんな環境下でも視認できる明るい光の瞬きは、人を魅了し、高揚させます。それは人の営みの力強さを象徴するのではないか、と思うようになりました。
これまでネオンサインは、遊技場や店舗などで欲求を刺激したり、射幸心を煽るためにも使われてきました。そうした目的から切り離すことで、描線が明滅するだけの純粋な装置として機能させたいです。
うたかたに力強く立ち上がる発光体とその明滅のループが、ただそこに存在します。


ー 六本木アートナイトでは、来場者にどのような体験やコミュニケーションが生まれることを期待していますか?
今回の《横断のための目印》と《現在地》は、六本木アートナイトの入口となる場所に展開されます。街を象徴する交差点付近です。
都市空間における光は、ただの装飾だけでなく、目印として働きます。「そこに行きたい」「ここにいる」という感覚を可視化するものです。
道路を横断し、現在地を確かめる。光のサインを目印に都市を移動する。その一連の行為が芸術や祭りへのプロローグとなり、都市の夜を新しい時間へと変えていきます。
街と芸術、日常と祭り、見えない境界や階層を横断するために輝いてほしいです。
なにより、とにかく単純にブチ上がってほしいですね。
可能なら近づいてみてほしいです。少し驚く仕掛けがあるかもしれません。
ーインスピレーションを得るためのおすすめのスポットを教えてください
岡山の実家で営んでいる「奥山いちご農園」です。
自然の中で目にする色や光の変化は、都市で制作する作品の感覚にも結びついています。例えば、いちごの鮮やかな赤や葉の緑、ビニールハウスに反射する光は、私の色彩感覚の原点となっています。果実の甘い香りや柔らかなフォルムも、どこかネオンの光のグローやなめらかな描線との共通点を見出せます。
干拓地という広大な田園地帯の空の鮮やかさは、青・オレンジ・黒・ピンクと移ろい、劇的と言っていいかもしれません。
都市で人工的な光を扱う一方で、自然の中で得た色彩や明度の感覚が微妙なバランスをもたらしてくれる。その両極を行き来しながら、表現を更新しています。

ー今後取り組みたい新たな表現領域や挑戦があれば教えてください。
今後も、さまざまなところでネオンをピカピカ光らせたいです。
人の行き交う街頭ビジョン、街灯のない田園地帯、机の上のタブレット、高層ビルの屋上、寝室の壁、誰かのSNSのタイムライン、バッグについてるキーホルダー。建築や都市のランドスケープ全体に作用するスケールから、個人の気持ちに沿うようなものまで、人や場所と関係していきたいです。
また、明滅のリズムが音楽やパフォーマンスと一体になる作品にも興味があります。ネオンに留まらず、さまざまな人と作品づくりをしていきたいです。
空間の中に一時的な祝祭を立ち上げて、その光景を文字通り目に焼き付ける。そんな瞬間を生み出したいです。
とにかく試作を重ねます。
奥山 太貴 | Okuyama Taiki
アートディレクター・デザイナー/グラフィックアーティスト
1988年岡山生まれ、東京在住。アートディレクター/デザイナーとして文化芸術の領域で活動する傍ら、グラフィックアーティストとしてネオンサインをモチーフにした描線の明滅のみで構成されるループアニメーションやインスタレーションを制作。発光体の明滅を人の営みの力強さと捉え、その時々のテーマを内包しながらも、極めてエンターテイメント性の高い方法で表現する。国内外のコラボレーターとの作品発表も積極的に行う。また、地域や農業の課題に取り組むいちご農家でもある。

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奥山いちご農園:http://okuyama-ichigo.com/
編集:AWRD編集部
