クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」の新連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」(#AMGC)。
「新たな感性」をテーマに、デザイナー、アーティストなどさまざまなフィールドで活躍する世界の気鋭クリエイターにスポットをあて、創作やその国ならではのカルチャーに触れていきます。
9回目は、現代美術家・宮田彩加さん。染織を学んだ経験から出発し、ミシンにあえて“バグ”を起こすことで生まれるディテールや支持体を使わずに糸だけで構成した作品など、平面作品からインスタレーション作品まで新たな美のかたちを追求しています。
現在開催中の「Osaka Art & Design 2025」では注目プログラムの1つとして、大型アートインスタレーション《ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~》を発表し話題を集めています。【展示期間:2025年5月8日(水)〜 6月23日(月)】
今回、布や糸という身近な存在に、生命や進化のダイナミズムを重ねる彼女の独自の視座や制作の背景、これからの展望についてお話を伺いました。
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《ニュー博物誌 ~好奇心の遺伝子~》
撮 影:松見拓也
画像提供:コダマシーン
展 示:大阪梅田ツインタワーズ・ノース 1階 コンコース / 阪急うめだ本店 コンコースウィンドー
コラボレーター:廣田 碧(看板屋/グラフィックデザイナー)
コンセプト&ディレクション:コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)
ー宮田さんは、ミシンを媒体に“バグ”を意図的に起こすという、いわば失敗の行為によって新たな価値観を生み出す独自の表現を行ってますが、どのような経験から生まれたのでしょうか?
もともとは大学で染織を専攻したことがきっかけで、手刺繍の作品を手掛けるようになり、その後、大学院へ進学をした際に刺繍の可能性をより一層追求するためにミシンを取り入れることにしました。
今のミシンはすごく賢く、最初から最後まで一定のクオリティを保って縫い上げてくれます。誰が縫っても綺麗に仕上がるのです。しかし、そこに個性はありません。没個性そのもので、私が制作に利用する意味はあるのかな?と。では、まずはこの均一の針目を崩そうと思いつきました。もともとはフリーハンドで思うがままに縫っていたので、その感覚をミシンで出来ないかと考えました。
ミシン刺繍のデータをプログラミングする際にバグを加えることで、賢いミシンを騙し、針がピョーンとワープし、針の動きが軌跡のように糸の層となって現れる《WARP》シリーズを発表しました。その後、また別のバグの加え方をすることによって、支持体の布を無くして、糸のみで構成する《Knots》シリーズなど、さまざまなオリジナルテクニックを駆使し、バグ=エラーという失敗であるはずの行為から生まれる美しく面白いディテールにも価値があるというテーマで制作活動を行っています。

ー現在、大阪で開催中の「Osaka Art & Design 2025」では《ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~》という大型アートインスタレーションを発表されています。この作品にはどのような想いを込められましたか?
大阪梅田の玄関口である1日約40万人が通るといわれているパブリックスペースでの展示だったため、老若男女問わず多くの方の心に響くような展示内容にこだわりました。
幼少期、自宅の書庫にあったドイツの生物学者・哲学者エルンスト・ヘッケルの図鑑や、さまざまな動植物の画集に囲まれて過ごしました。また、パッチワークが趣味だった祖母がコレクションしていた、古今東西の布に描かれたモチーフや色使いも、まだ見ぬ土地や私が存在しなかった時代のカルチャーを知る図鑑のような存在で、それらを眺めるだけでワクワクしました。
知らないことを知る楽しみや、想像する面白さ、その感覚は誰にでも経験したことがあると思います。未知への憧れが掻き立てられる博物誌を見るようなそんなワクワクとした好奇心をよびさます展示を心掛けました。

ー 都市空間というパブリックな環境で作品を展開することは、これまでのギャラリーや施設などの展示と比べて、どのような意識の変化がありましたか?
大きなショーウィンドー7つ全てに私の作品が並ぶことも、これまでの作品展開を全てお見せするようなボリュームで大変な作業でした。さらにコンコースの展示は、普段刺繍という細かな技法を手掛けている私にはどういった展示ができるのか新たな挑戦でした。
結果的に、ショーウィンドーには、目線の高さで刺繍の繊細なディテールを近付いてご覧いただけるように刺繍作品を展示しました。コンコースでは、その作品を手掛けてきたモチーフや世界観を表現する図鑑のオブジェや装飾を施し、行き交うだけでもその世界観に没入できるような構成にしました。
刺繍そのものを手掛けるのではなく、刺繍作品を普段手掛けている上での世界観を具現化することに注力し、そうすることによって、普段手掛けている刺繍作品への思い入れや親しみも一段と強く訴えかける仕組みにしています。
今回の展示は私自身も作家としての可能性が広がる貴重な経験となりました。


ー宮田さんの作品は、生物の形態や進化のあり方と呼応しているように感じます。作品における「生命らしさ」はどのように捉えていますか?
もともと大学で染織を専攻していたので、テキスタイルデザインに動植物をモチーフにすることは自然な流れでした。その上で、刺繍技法へ展開した際に、縫い糸が派生していく様が細胞の増殖のように感じました。
現在のミシン刺繍にバグを加えて新たなディテールを生み出す様も、まるで遺伝子操作や、生物の突然変異のようで面白さを感じています。
糸を縫うという行為そのものが刺繍に費やした時間が糸の厚みとなって現れ、自分が生きていることを可視化していると考えています。

ー京都を拠点に活動されるなかでインスピレーションを得るためのおすすめのスポットを教えてください
賀茂川(鴨川上流)です。
賀茂川のすぐ近くで生まれ育ち、現在も賀茂川を愛犬と散歩したり、友人とお花見をしたり、一人でぼーっと過ごしたり、私にとって作品のモチーフやテーマとの出会いの場であり、制作の合間の息抜きできる場でもある制作意欲の源になっています。
四季折々の植物を眺めたり、川で魚や小さなエビを捕まえたり、カナヘビやカエルを見つけることもあります。私はこの賀茂川があるから、ここから引っ越せないと言っても過言ではないかもしれません。
ー今後の活動や展示情報がありましたらお知らせください。
今後、大阪や横浜で個展を開催します。新作も発表しますので、ぜひお越しいただけますと嬉しいです。 そのほか、国内から海外まで芸術祭や展覧会も予定していますので、お楽しみに!
・開催中~6月22日「Kansai Art Annual 2025 CO」(心斎橋PARCO,大阪)
・開催中~6月23日「ニュー博物誌 ~好奇心の遺伝子~」(大阪梅田ツインタワーズ・ノース1階 コンコース / 阪急うめだ本店コンコースウィンドー)
・7月5日~7月26日 個展「マクガフィンの余熱」(YOD Gallery,大阪)
・8月20日~8月25日 個展「パレイドリアの余韻」(横浜高島屋美術画廊)
宮田彩加 | Sayaka Miyata
京都生まれ
2012 京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻 修士課程 染織領域修了
大学で染織を専攻したことがきっかけで、染めた布に奥行きやボリュームを出すために手刺繍・ミシン刺繍によるオリジナルテクニックを使った制作を始める。
ミシンという世の中に溢れた媒体に意図的にバグを起こすことで現れる糸の層「WARP」シリーズや、支持体の布を無くし、糸だけで構築させていく「Knots」シリーズなど、「エラー:失敗の行為によって新たな価値観が生まれる」を根本にしたテクニックと、生物の形態や、物事の発生や進化の在り方を呼応させた作品作りをしている。
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編集:AWRD編集部