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野口桃江/#AMGC Vol.18

2026/08/20(木)

企業・自治体・クリエイターが共に多様なテーマに取り組むための公募・共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」の連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」( #AMGC )。
「新たな感性」をテーマに、デザイン、アート、ビジネスなど、さまざまな分野で活躍する世界の気鋭の挑戦者にスポットをあて、創作や活動、公募の価値、その国ならではのカルチャーに触れていきます。

今回登場いただくのは、音、身体、テクノロジーを横断しながら、感覚やコミュニケーションのあり方を探求するアーティスト野口桃江さん。器楽曲や電子音楽の作曲、センサーを用いた即興演奏、インスタレーション作品の制作など、多岐にわたる表現活動を行っています。

なかでも、乗る人の鼓動を検出し、音・光・振動へと変換する作品《QUENELLE》は、「ComoNeプログラム #02 Hello Human!」のプロジェクトにも選出されています。また、「ComoNeプログラム #02 Hello Human!」の誘致作品展示「Audio Game Center + ComoNe 音から生まれたゲーム展」では、ハッカソンへの参加を通じて共同制作したゲームを制作・出展されています。

本記事では《QUENELLE》の制作背景や、ComoNeプログラムへの参加を通じて得た気づき、異分野の人々と共につくることの可能性について伺います。

「身体感覚」や「人とテクノロジーの関係」など領域を横断しながら作品を制作されています。こうしたテーマに関心を持つようになった原体験やきっかけがあれば教えてください。

私はもともと、現代音楽の作曲から創作活動をはじめました。フランスの音楽院でプログラミングに触れたことをきっかけに、実世界で動くシステムを作ることに魅力を感じ、大学院ではオランダに渡り、ArtScienceという科で学びました。
同じ頃、スタジオでスピーカーから瞬間的に大音量を聞いてしまったことをきっかけに、難聴を経験したことも原体験の一つです。自分の身体に起きていることを知りたくて、さまざまなセンサを装着し、実生活や即興演奏に取り入れるようになりました。そこから、聴覚にとどまらないマルチモーダル(多感覚的)な作品を手がけるようになっていきました。

『Autonomic Resonance』Jonathan Chaim Reus, Momoko Noguchi (2014)

「ComoNe」プログラムに参加されたことで、ご自身の制作や考え方にどのような変化や新しい発見がありましたか。また、研究者や異分野の方との交流から得たものがあれば教えてください。

研究者との交流は、ComoNeプログラムに参加する少し前から続けていました。QUENELLEのようなEVや楽器などの無機物に「エージェンシー(行為主体性)」は宿り得るのか。人間の脈を共有することで、対象への印象は変わるのか。そうした問いについて対話を重ねていました。異なる知見から理論や具体例を示していただくことで、問いの解像度が少しずつ上がっていくように感じます。

一方、ComoNeで印象的だったのは、多様な背景をもつ人たちと一緒にものづくりができたことです。視覚以外の感覚で世界をとらえる方、工学やゲームを専攻する学生、UXデザイナーなど、それぞれの視点や専門性を持ち寄り、アクセシビリティについて考えながら、はじめてのゲーム制作に取り組みました。


現在開催中のComoNe企画展「Audio Game Center + ComoNe 音から生まれたゲーム展」では、「音」を通じた新しい体験が提示されています。この展示の見どころや、来場者に特に体験してほしいポイントを教えてください。

現在展示している作品のひとつ「Echolocation Maze―迷路でねこ探し」は、ComoNeで開催した2日間のハッカソンでつくったオーディオゲームです。オーディオゲームとは、視覚情報を用いず、音情報のみで構成されるゲームのことです。チームには、加藤さんというシステムエンジニアが加わってくださいました。加藤さんは全盲の方で、ComoNeの中を実際に歩きながら、音の反響からどのように空間を把握しているか(エコーロケーションと呼ばれる知覚)を話してくださいました。そこから体験型のゲームが立ち上がっていきました。
加藤さんとはハッカソン終了後も音源を送りあい、ピアノとベースの曲を一緒に作りました。ゲームをクリアすると曲が流れるので、ぜひ現場でねこをキャッチしていただきたいです。さらに、音楽を聴いて「私もヴァイオリンで参加したい!」というComoNeクルーも現れました。こうして共創が自然につながっていくところが、ComoNeの魅力だと思います。

《QUENELLE(くねる)》はアーティストとエンジニアによる共同制作ですが、普段の一人での制作と共同制作とでは、アウトプットや制作過程にどのような違いがありますか。

QUENELLE(くねる)に長年一緒に取り組んでいるエンジニアとは、互いの考え方の違いも楽しみながら制作しています。じつは制作当初は「なぜ車体をくねらせるのか?」という点で一悶着ありました。車体をくねらせることに機能や性能上の意味はないからです。でも、その独特の造形によってQUENELLEはひと目で鑑賞者の記憶に残る存在になり、多くの方に親しみをもって接していただけたと思います。合理性だけでは測れない価値を、鑑賞者の反応をとおして実感した出来事でした。

共同制作では、自分で設計する部分と、他者にゆだねる部分の境界をどうデザインするかをいつも意識しています。インタラクティブな作品をつくるときに、作品と鑑賞者の関わり方を設計することとも近いかもしれません。すべてを構築しきらず、他者との関わりから思いもよらない展開が起こり得るような余白を、思いきって残すようにしています。

《QUENELLE》では、鼓動を音や光、振動へ変換することで、人と車の関係を再定義する試みが行われています。この作品を通して、「人と機械の理想的な関係」をどのように考えていますか。

QUENELLEでは、脈拍という生命のリズムを車と共有することで、車がまるで身体の延長として感じられるような「身体拡張」の感覚を呼び起こそうとしています。人が車を操作するだけでなく、車からの応答によって人間の側も少しずつ変化していく。「人馬一体」のような状態を、現代のテクノロジーで捉えなおす試みともいえるかもしれません。

試乗会では、「雨に濡れないかな」「そろそろ充電してあげよう」といった声が自然に聞こえてきます。人間が機械を一方的に操作するのではなく、やりとりを通して人間の側も変化していく。そんな関係を築けたら理想的だと思っています。


展示を通して、来場者から寄せられた反応や言葉の中で、特に印象に残っているものはありますか。また、それによって作品の見え方が変わった経験はありますか。

ComoNeには、アーティストからの問いに来場者がふせんを貼って応答できるコーナーがあります。
「脈を共有すると、人と道具の関係性は変わる?」という私の問いに対して、
「これがミャクミャクの正体」という言葉が寄せられたときは、思わず笑ってしまいました。

また、Hello Human! 展全体の「人間らしさとは?」という問いへの応答で

「無機物の霊性とは」という言葉をみつけたときには、電光が走るようにさまざまなイメージが立ち上がり、しばらく考え込んでしまいました。

こうした言葉との出会いも、次の創作につながっていくかもしれません。


今後チャレンジしたいことなどありましたら教えてください。

人間の知覚や身体拡張、人と無機物との関わりについては、今後も探究していきたいテーマです。異なる専門性や経験をもつ方々と対話を重ねながら、新しいプロジェクトへと発展させていけたら嬉しいです。

秋には、3つのイベントの参加を予定しています。よろしければぜひ足をお運びください。

2026年 9月5日(土)14:30-16:30 Common Nexus BRANCH7, 屋外特設レーン
「QUENELLE 感覚つながる小型EV 身体のなかの音を聴くワークショップ&試乗会」

2026年 9月12日(土)14:30-16:00 Common Nexus 大階段
ComoNeプログラム#02 トークセッション『未来からの呼びかけに応える。これからの「人間とは」』

【登壇者】

小川 浩平(ComoNeプログラム#02 テーマオーナー/名古屋大学大学院 工学研究科 准教授)
野口 桃江(ComoNeプログラム#02 出展者/アーティスト)
アフメド・アリアン(ComoNeプログラム#02 「ヤングムスリムの窓:芸術と学問のクロスワーク」出展者)

詳細・お申し込み:https://hellohuman-aftersession.peatix.com/

2026年 10月16日(金)17日(土)「AICHI NEXT Performing Arts Project」愛知県芸術劇場 2階フォーラム
脈拍とピアノをつなぐ『Heart tone piano : Revivify 236283』の展示と即興演奏

詳細はこちら:https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/20261016challengestagea.html


野口桃江

器楽曲から電子音楽の作曲、センサーを用いた即興演奏、インスタレーション作品の制作まで、多岐にわたる活動を行う。
音・身体・テクノロジーを横断しながら、福祉、ウェルビーイング、多感覚的なコミュニケーションの実践や協働プロジェクトにも取り組んでいる。

Links

Instagram:https://www.instagram.com/momokonoguchi/

Website:https://www.momokonoguchi.com/

編集:AWRD編集部

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