企業・自治体・クリエイターが共に多様なテーマに取り組むための公募・共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」の連載シリーズ「AWRD meets GLOBAL CREATORS」( #AMGC )。
「新たな感性」をテーマに、デザイン、アート、ビジネスなど、さまざまな分野で活躍する世界の気鋭の挑戦者にスポットをあて、創作や活動、公募の価値、その国ならではのカルチャーに触れていきます。
Vol.16に登場するのは、アーティスト、ディレクター、キュレーターなど多様な立場で活動する渡辺ミリさん。メディアテクノロジーやそれを取り巻く環境への批評的視点を軸に、インスタレーションやプロジェクト、Webなどさまざまな手法を用いながら、シニカルかつユーモラスにその構造を問い直しています。
また、領域横断的なテーマを設け、世界中から作品やプロジェクトを集めて公開するコレクション「ComoNeプログラム#01」では、ファイナリストに選出されるなど、その活動はますます注目を集めています。
今回、現在の関心や制作の背景、異分野との協働について紐解きながら、メディアテクノロジーとともにある今の表現、そしてこれからのチャレンジについて伺いました。
ー 現在のような表現活動を始めたきっかけを教えてください。また、初期の関心と現在の活動のあいだに、どのような変化や連続性がありますか?
小さい頃は手塚治虫のSFを読み、ロボットに憧れるような子供でした。またちょうどZ世代初期にあたる自分はインターネットと付き合いながら育っており、その頃からメディアやテクノロジーへの関心が生まれ、現在の活動につながっているように思います。
初期は主に空間インスタレーションを制作していましたが、大学院で表象文化論に触れたことをきっかけに、よりプリミティブなメディアの在り方について考えるようになりました。関心の根っこは初期から大きくは変わっていませんが、その時々の環境に応じてゆるやかに変化しています。

ー メディアテクノロジーを軸に活動されていますが、現在最も関心を持っているテーマや問いは何でしょうか?それはどのような体験や違和感などから生まれましたか?
最近の関心は「規範によって固定されたものを、異なる場所からどう読み替えるか」ということでしょうか。メディアやテクノロジーは、何かを記録したり伝達する手段であると同時に、ときに何かを「規範」として固定したり、強化したりもします。それに対し、その外側にある世界というか「別の世界ではこうかもしれない」というオルタナティブな仮説を、メディアを使って逆説的に提示したいのです。
考え始めたきっかけは、自分がキャリアなどを進める中で、(例えば職業から、明日の夕ご飯まで)自分が日々選んだ何かにおける「選ばなかった側」に思いを馳せるようになったことです。もし自分がこっちを選んでいたらどうなっていたんだろうか、という「こっち」を考えることで、世界のより豊かな可能性に触れられるのではないか?と思っています。
ー リサーチャーとしての視点と、アーティストとしてのアウトプットはどのように接続されていますか?
リサーチと表現は、どちらかが先というわけではなく、切断・接続・変換を繰り返しながら有機的に同時進行している感覚があります。ただ近作でしばしば扱っているような、誰かのセンシティブな体験や背景を扱う際には、「面白い素材だから作品にする」という発想より先に倫理的な判断が求められます。リサーチの内容を安易にアウトプットへ”変換”するべきでない場面もあるからです。リサーチを作品に落とし込むべきか、それとも留めておくべきか、そのバランスを常に意識するようにしています。


ー 渡辺さんは多様な領域に携わっていらっしゃいますが、異なる分野とのコラボレーションで意識していることや、そこで生まれる価値についてどう考えていますか?
異なる分野を完全に理解することは難しいですが、その過程で自分の価値観が変化していく感覚をとても楽しんでいます。意識しているのは、まず異なる分野への敬意と、そこに触れる中でいかに自分の価値観を相対化し、その上でどこに軸足を置くか、でしょうか。
自分は芸術が専門ですが、異分野とのコラボレーションの結果、極端な話作品ではなく論文などが生まれる可能性もあると思います。当然ながら異なる分野には異なる文化があり、それを芸術の視点から安易に断じない、何なら無理に作品にしなくてもいい、というフラットな態度を意識しています。
また、異なる分野に触れたことで発生する価値観の変化は判断の揺らぎをももたらします。世界の見え方は大きく広がる一方で、揺らいだままでは何も作れなくなってしまうでしょう。だからこそ、その都度自分なりの判断基準を問い直し、実践していく必要があります。簡単ではありませんが、その緊張感の中で生まれるものに、新しい価値が宿るんじゃないかと思っています。

ー 作品を通して、鑑賞者にどのような「体験」や「気づき」をもたらしたいと考えていますか?また、そのために設計しているポイントがあれば教えてください。
直感でやっている部分も多いので言語化が難しいのですが(笑)、常々思うのは「世界は一つではない」ということです。近年注目されている「プルリバース」という概念にも近いかもしれません。哲学をはじめ多くの分野で語られてきたことでもありますが、場所の数だけ世界があり、生きるものの数だけ個別の世界があると考えています。
近年はそういった「複数の世界」を見出す活動をしていますが、「作品を作っている」というより「オリジナルのメディアを設計している」という状態に近いかもしれません。作品ごとの個別の世界を表現として変換・表出するための、メディアそのものをデザインしているというか。鑑賞者にも、作品というメディアを通して「複数の世界」に思いを馳せてもらえればと思っています。


ー 今後チャレンジしたいことなどありましたら教えてください。
「結局何してる人なんですか?」とよく聞かれるのですが(笑)、肩書はわりと適当に名乗っていて、自分自身をいわゆる「アーティスト」だとはあまり思っていません。その時々に応じてデザイナーかもしれないし、アーティストかもしれないし、ディレクターかもしれない。極端な話、表現の領域にすらいなくていいかもしれません。
そんな具合なので、今後チャレンジしたいことは特に決まっていないというか、おそらくまた何となく思いついたら、何となくやり始めるのだと思います。今後もそういった中庸に居続けたいですね。
渡辺ミリ
アーティスト、ディレクター、キュレーターなど色々。
メディア、テクノロジーやそれを取り巻く環境への批評的視点を、インスタレーション、プロジェクト、webなどさまざまな手法を用いてシニカルかつユーモラスに問い直す。
東海国立大学機構ComoNeプログラム#01ファイナリスト。令和二年度 武蔵野美術大学卒業・修了制作優秀賞、第27回学生CGコンテスト、2021アジアデジタルアート大賞展FUKUOKAなど入賞。

