文:山田 佳苗 / 編集:AWRD編集部
国産材の利用拡大に向け、クリエイティブなアプローチで、国産材の魅力や見え方、「木へのまなざし」のチェンジに挑戦する「WOOD CHANGE AWARD」。2020年12月19日、そんな同プロジェクトの連動プログラムである「WOOD CHANGE Meetup」が開催。多彩なゲストたちが、これからの林業と国産材の可能性についてさまざまな角度から意見を交わしました。
森林は今が最も旺盛、活用する人と届ける人をどう増やす?林業を取り巻く必要不可欠な人材
第一部に登壇したのは、林野庁林政部木材利用課長の長野麻子さん、東京チェンソーズ代表の青木亮輔さん、飛騨の森でクマは踊る代表の岩岡孝太郎さん、そしてモデレーターにクリエイティブディレクターの小野直紀さんを迎えた4人。テーマは「国産材をめぐる経済と資源の循環」。最初に話し合われたのは、国内の林業を取り巻く人材やその育成について語り合いました。
青木:林業の従事者は、全国で約4万5000人。年々減少傾向にあります。しかし森林自体は、戦後の植林を経て、今が最も旺盛。そのような状況下での僕らの利点は、木の活用期に林業をしており、その手段を考えながら人材育成ができることなんです。
長野:今一番足りないのは伐る人で、その次に植える人。再造林の課題は安価でしか売れないこと。木のサプライチェーンは伐採から販売までがほぼBtoBで、一般的な生活から遠い。この距離を縮めれば、青木さんたちのように、林業に興味を持つ若者も出てくるのではないでしょうか。
岩岡:当社で取り組んでいるのは、飛騨の広葉樹を、針葉樹と並ぶぐらい経済的に活用すること。広葉樹はさまざまな形状のため、一点もののプロダクトは作れますが、同じものの量産は難しい。つまり、細かい木の用途をいかに生み出すかが要。その上で不足している人材は、川上のスキルを所有する人や木の管理者、用途を見出すクリエイターや企業のみなさんです。
小野:木を活用する人も届ける人ももっと増えて欲しい、と。青木さんも岩岡さんも地域に根ざした活動をされていますが、国産材と地域の関わりをどう捉えていますか。また、今後どのように関わりを築きたいとお思いですか?
岩岡:飛騨市は林業従事者の割合は少ないですが、製材者や大工、家具職人がそれなりにいます。彼らと共にいかに飛騨市の木を流通できるか。現在、地域内の林業従事者と連携し、飛騨市の木を地域内で使う取り組みをスタートさせ、広葉樹の市場を作ろうとしているところです。
青木:檜原村は木材産業がそこまで盛んではないのですが、村の93%が森林で、現在樹齢60年ほどの木がたくさんあります。そこで、人口3,000人のうち2,000人が木のおもちゃ作りに関わるドイツのザイフェンという村をモデルに、現在、檜原村を日本一の木のおもちゃの村にする取り組みをはじめました。
おもちゃ工房やおもちゃ美術館の建設をはじめ、地元の大工さんに木のおもちゃの一部の加工を手伝ってもらったりと、地域に仕事が生まれ、関係人口が増えつつあります。また、木のおもちゃは安心安全な商品を求めるご家庭で関心が高く、彼らが村に来ることで新たな観光の流れもできる。木のおもちゃを軸に、村の新たなストーリーができています。
木の可能性を明らかに、国産材のブランド化と多様性の打ち出し
小野:お二人とも、地域の特性を活かしながら活動されているのが印象的でした。とはいえ、林業は課題がとても多い。日本は森林大国ですが、現在木がなくても暮らせる社会ゆえに僕を含め皆それを忘れてしまいがちです。今後、国産材を積極的に使ってもらうには、どのような取り組みが必要なのでしょう。
長野:できれば高く、日本の木のプロダクトを買っていただきたいです。現在、海外の森は減っているのに、国内で使用する木材の6割を輸入しています。特に違法伐採されたものは使わない方が良い。そして、木を使うことを重要視する人は若くなるほど減っており、木造建築に住んでいると認識している人もほとんどいない。今後は国産材のブランド化に力を入れたいです。
そのためにもアイデアがもっとたくさん欲しいです!(笑)お店や家具など国産材を使用したプロダクトは増えてきました。でも、まだまだ可能性はあると思っています。「WOOD CHANGE AWARD」に、日本の資源である森を次世代に繋いでくためにも、ぜひ参加していただきたいです。
青木:新しい取り組みは、僕らのような新参者が行っていくべき。そうすることで、異業種とのコラボを可能にし、地域に多様性が生まれる。それが関係人口の増加に繋がっていきます。「WOOD CHANGE AWARD」も、その可能性の一つであると思っています。
岩岡:既存の林業と並行して、林業にまつわる新規産業を立ち上げたり、いろいろなアイデアを集めたりしていくことが重要です。木のさまざまな側面をアピールすることで、新たに興味を持つ人が出てくるのではないでしょうか。
小野:ちなみに、国産材を自然資本として、もっと国レベルの視点で扱うべきだと感じたのですが、林野庁の枠を超えて取り組まれていることはありますか?
長野:国土交通省や環境省と連携して木材利用拡大に向けた取組を行っていたり、公共施設の木造・木質化を促進する法律もあります。これを民間にも広げようという議員立法の動きもあり、菅総理のカーボンニュートラル化の提言でさらに追い風が吹きつつある。現状、すでに確立している技術で二酸化炭素を最も固定できるのは木。そういった面でも、林業の可能性を開いていきたい。
小野:普段木に関わりがないと「木はなんとなく良い」で止まってしまいます。そこから踏み込んで、我々の未来と結び付け、木の価値を提示していくべきではないでしょうか。
青木:実際にお客さんに森に来てもらって木の話をすると、自分ごとになって、その人が他の人に伝えてくれたりします。なので、一度森に来て木を見るという行為は大事かなと。
岩岡:飛騨に朴木(ほおのき)という、大きな葉っぱを付ける木があります。葉っぱに殺菌効果があるので、町のスーパーマーケットで売られていて、それで包んだお寿司が文化として根付いているんです。そのような木の多様な部分を明らかにする文化を、もっと作っていくべきではないでしょうか。
第二部:国産材が開く「プロダクト」の可能性。木と共にある流通、産業、社会構造をどうリデザインする?
第二部では、引き続き小野さんをモデレーターに、建築家の永山祐子さんと元木大輔さん、武蔵野美術大学教授の若杉浩一さんを迎え、「材料としての国産材が開く「プロダクト」の可能性」と題して議論が行われました。
小野:御三方それぞれ、木の価値をどのように感じてらっしゃいますか?
永山:先日、家のフローリングを削り直しました。裸足がすごく好きで、肌に触れるところは木がいいんです。木は湿気をもっていて、熱の伝わり方や匂いなども心地よい。削れば長く使えますし。一方で、資材として木を使う際、巨大な建築だと大量に伐採しないといけません。その際に木を伐る行為に対し、もう少し意識を向けられたら。あと、先日広葉樹の実を採って、新築した庭に植えたのですが、このように木の成長を肌で感じられる機会があると、もっと木に親しみが沸くと思います。
元木:木と人はお互いになくてはならないもの。ベルリンに「プリンセスガーデン」という、緑豊かな4ヘクタールほどの公園があります。訪れた人はDIYなベンチに座ったり、カフェでは自分で摘んだハーブの紅茶が飲めたり。ここは、もともと2人のベルリナーが空き地のゴミを片付けて木を植えたり畑を耕したりして、ゲリラで生み出された場所。あまりに魅力的なので人が集まるようになり、現在は民間と政府の半々で運営されているんだそうです。そこのあり方はすごく素敵だなと。
若杉:木は循環する資源。今の工業社会は巨大なものばかり作り、小さなものを滅ぼしていきました。それが、地方の過疎化や安価な木材を海外に求める結果に繋がっています。木材は本来、そのような社会と真逆にあるもの。今後、我々が木と共にある流通、産業、社会構造をどうリデザインするかが肝です。これは林野庁だけでなく、地球全体の話だと思っています。
小野:木の課題や難点はみなさんどこにあると思われますか?
永山:どうしても耐火建築だと、骨組みに木材を使うことはできても、木の風合いを活かした外壁や内装は、いろいろな制限があって難しい。特殊な処理をすれば実現できますが、その分価格が上がってしまいます。つまり、本物志向の高いクライアントの想いがない限りは、木材の使用は減額要素として削られてしまう部分が大きいですね。
元木:木が余ってしまう、売れないからどうしよう、、ではなく理想の生活像があってどう木と共存していくのか、という順番で考えないと目的と手段を履き違えてしまう気がします。本来の規模で考えれば木は人間にとってサスティナブルなものであるはずなのに、資本主義やグローバリズムと単位が大きくなった結果、大きな循環で回すようになったことで歪みが生じている。問題はどちらかというと仕組みで木自体にあまりネガティブなポイントはないと思いますね。
若杉:難しくしているのは人間側で、この50年で厄介なものになった。その要因は工業・消費社会。これは流通の中の人がお金を取って、生産者が損する社会です。今後、そのシステムをどうリデザインしていけるか、価値観を変えていけるか。教育の問題にも深く関わっていて、さまざまなところから学びを作っていくのがポイントだと思います。
クリエイティブなアプローチで国産材の新たな物語に挑戦する、WOOD CHANGE AWARD
小野:戦後高度経済成長してきた日本、グローバル化してきた世界で培われた消費における価値観と木が合わなくなった。経済合理性とは、本来人や社会の総合的な幸せを追求することであって、その中には木の持っている豊かさ、暖かさ、心地も含まれている。でも、そうした情緒的な価値が抜け落ちた経済合理性を追求しているのがここ数十年なんですよね。
その中で、「木へのまなざし」のチェンジに挑戦する「WOOD CHANGE CHALLENGE」のプロジェクトの中で3つのテーマでアイデアを募集しています。
・STORYTELLING/木を使うことのイメージをチェンジするコミュニケーション手法
・MATERIALITY/木の特性の活かし方をチェンジしたプロダクト
・ACTIVITY/木と人の関係をチェンジするサービス、仕組みに関するアイデア
既存価値以外で、新たな木の価値をつくる土壌があるのではないかと思っているのですが、木を取り巻く環境はどうあるべきでしょう?また、現在開催中の「WOOD CHANGE AWARD」に向けたコメントもお願いします。
若杉:木材を使うだけでなく、地域の中で循環させることも重要。自分は『コイヤ』という、日本の木で、人とモノ、作る人と使う人、暮らしと地域、地域と地域をつなぐデザイン・プロジェクトを運営しています。地域の人が地域のものでものづくりを行い、地域産業が巻き起こるようになって欲しい。「WOOD CHANGE AWARD」では、『コイヤ』のように、もののデザインだけじゃなく、社会構造まで視野に入れたアイデアを期待しています。
元木:先日興味深い話を聞いて、神戸市は市街地の緑化のために植えた街路樹がとても多く、かなり育っていると。森だと、伐採する周りの木も伐り、搬送する道と保管場所の整備など、多くの力が必要。しかし都心だと、木の商品価値が高く、伐って倒すのも簡単。ここで林業やるのもありかと思ったほどです。実際その規模ではないですが、小さな経済圏なら成立するかもしれない。それで街に緑が増え、そこで育った子どもたちに木と共存する価値観も養われる。木が増えることは、このように文化の醸造にも繋がります。
永山:消費において、「木と暮らす」ことに幸せを感じるイメージを一般化していくことが重要だなと思っています。マスの人たちに広く伝わる、新しい価値観を作っていくための見せ方や仕組みが必要じゃないかと。
小野:「WOOD CHANGE AWARD」は、単なるアイデアに留まらず、社会への影響まで掘り下げた提案を期待しています。価値を変革するとき、世の中に必要だけどまだ顕在化していない価値を見つけ、いかに届けるか。既存価値に潜ませたり、固定観念を壊したりなど、ラディカルなものからソフトなものまで、いろんなアプローチで取り組んでみてください。
永山:私も一緒に勉強する気持ちでいます。マスの人にきちんと届けるのが重要で、ある意味私は一般的な社会の1人として、どう伝えてもらえるか期待しているところ。広く世の中に発信できるものを、このアワードで見つけていくことが大事なのではないでしょうか。
現在進行中の「WOOD CHANGE AWARD」、みなさまからのご応募お待ちしております!
■WOOD CHANGE AWARD
「木へのまなざしを変えるアイデア」募集 締切2021年2月15日
https://awrd.com/award/woodchangeaward
■関連イベント
【オンライン開催】Material Meetup KYOTO vol.16「 “サーキュラー” 視点で再発見する、国産木材のメリット」
- feat. WOOD CHANGE EXHIBITION in Kyoto 2021.1.26 (火) https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/210126_mmk16/