次世代のクリエイターやイノベーターの「クセ=個性、創造性」を称える、アート&テクノロジーアワード「クセがあるアワード:塗」が開催中です。既存の枠にとらわれない発想や表現を"クセ"としてポジティブにとらえ、新たな価値の創出を後押しすることを目的に、本アワードは今年で2回目を迎えます。
その連動企画としてスタートしたインタビュー連載「クセが生む、創造のかたち(KUSE STORIES)」の最終回は、第1回「クセがあるアワード:混」ファイナリストのMisa Hanedaさんにご登場いただきます。
Hanedaさんは、脈拍センサとインタラクティブ映像を用いて「自身の寿命を擬似体験する」という独創的な作品で注目を集めるアーティストです。「生きていることの不思議さ」を探索する中で、「死があること」を確認することから始まる創作哲学は、鑑賞者が自身の内面と向き合う深い体験を生み出します。
生命科学や地球科学の知見にも触発されながら、地球に生きている感覚を探求する彼女に、今回、死をテーマにした作品に込められた思いや、生命への探求についてお話を伺いました。
「クセがあるアワード:塗」(応募は終了しました) ▼アワード詳細はこちら |
ー脈拍センサとインタラクティブ映像で「自身の寿命を擬似体験する」という作品ですが、このコンセプトに込めた思いを教えてください。
人以外の生きものに目を向けると、個に頓着せずいのちを繋いでいる生きものはたくさんいますが、わたしは自分を個と認識していて、一度きりのいのちを生きていると思っています。
ただ日々の生活の揺らぎの中で、いつもこのことを胸に留めておく難しさも痛感します。少しでも生きている自覚を身に刻んでおきたいと思った時に、拠り所としてまず「自分に死があること」を確認したいと思い、このコンセプトに至りました。

ー「自分の背中を押してくれるものとして死を想起する」という視点について、この考えに至った背景を教えてください。
数年前、自分の価値観が大きく転換していく時期がありました。それまでは、社会や人間関係からの要請を自身のものとして内面化し、違和感を感じることもなく、それらに応えることにほぼ全ての生きる時間とエネルギーを使っていました。
でも、自分がそれまで本当は何を感じていたのかをわたし自身が置いてけぼりにしてきたのだとこの時期気づいていく中で、それまで抱えていた価値観がガラガラと崩れ、しばらく茫然として何にも手がつかなくなりました。
誰が何を言おうと、わたしが生きていることで感情を感じるのはわたし自身なんだと、ひとつひとつ手繰り寄せて自分の手に取り戻していくのに、わたしにとって拠り所としてまず必要だったのが「死を確認すること」でした。
ー「クセがあるアワード:混」に参加された経験は、ご自身の創作活動にどのような影響を与えましたか?
アワードのプレゼンや展示は、芽が出たばかりの思考の一旦を人に伝える機会となり、正直不安と緊張でいっぱいでした。
ですが、そもそもこの作品を「気になる」と思ってくれた人がいたという事実や、話をしようと声を掛けてくれた人たちの眼差しのあたたかさは、立ち返ることができるひとつの励みになったと感じています。

ー「生きていること」の不思議さを探求する中で、どのような気づきや発見がありますか?
わたしが「生きていることの不思議さ」と言っているのは、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を読んでいるときの感覚に近い気がしています。
ただわたしは彼女と違って人工物にあふれた都心で育ち、自然豊かな環境で過ごす機会はあまりありませんでした。でもここ数年、自然科学が培ってきた知見に触れることが、地球に生きている自覚を叩き起こしてくれるような感覚があります。知見というのは例えば、地球の成り立ちや変化、太陽や月との関わり、生きもののしくみ、生命進化の連なりの中の自分、などです。心が揺さぶられたり、自分の身に浸み込ませたいと思ったことが制作の起点になっています。
その中で、自分が何に喜びを感じるかが変化してきているなと思います。例えば都心部であっても自分がどれだけたくさんのいきものに囲まれていたかに気がつくようになり、道端で彼らが元気そうにしていると無性に喜びが湧いてくることがあります。
ー鑑賞者が自身の内面と向き合う体験を作品に込める理由を教えてください。
制作に向かう1番の動機は、わたし自身がその光景を見てみたい、その中に身を置いてみたいというものです。自分を立たせる拠り所を、外ではなく内側に、人との比較ではなく、地球の生きものとして自分を見つけ直すことに求めてみたいと思い、模索しています。それが質問いただいたような体験になっているかわかりませんが、わたしはこう思うけれど、あなたはどう思いますか、と投げかけてみたいんだと思います。
ーAIが普及する現在、人間の存在意義や「生きることの不思議さ」について、どう考えられますか?
何か知りたいことがあるとき、まず生成AIに聞いてみるという挙動がわたしも日常になっています。予想を超えた回答が返ってくる楽しさも感じています。でも正直AIの何たるかには疎いですし、年々すごいスピードで新しいテクノロジーが次々社会実装され、これらがわたしたちの何を変えていっているのか捉えるのが難しいと感じます。ただ、どんな未来予想が語られても、わたしが地球のいきものの一端であるということは見失いたくないなと思います。
ー今年のアワードテーマ「あそび心とAIで( )を塗り替える」について、どのような可能性を感じますか?
停滞した既定路線を塗り替える、新しさや希望の予兆が感じられるようなアイディアや展開があるといいなと思います!
ーこれから「クセがあるアワード:塗」に応募する人へ、メッセージをお願いします。
その人がもつ動機や背景を大切にしながら、何かを作ろうとする人を応援してくれる、自由度が高いアワード(集まり)だと感じます。もし迷っている人がいたらまず応募してみてください。
Misa Haneda
東京を拠点に活動。「生きていること」の不思議さに関心をもつ。生命や星が辿ってきた歴史やそのしくみなど、生命科学や地球科学の知見に着想を得て制作を行う。自分の存在を、地球の営みのひとつとして捉え直すための探索を続けている。映像表現を主な手法としつつ、電子デバイスや微生物を用いた制作も行う。

Links
AWRD ページ:https://awrd.com/creatives/detail/15682829
Webサイト:https://www.misahaneda.com/
Instagram:https://www.instagram.com/misahaneda_/
「クセがあるアワード:塗」(応募は終了しました)
次世代のチャレンジをマクセルが支援する「クセがあるアワード」。2回目となる今回は、AIと人が共創した作品を募集するAIクリエイティブアワードとして開催します!AIと共創した作品であれば、形式は問いません。みなさまの応募をお待ちしています。
▼アワード詳細はこちら
https://awrd.com/award/kuse-ga-aru-award-2
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